「隠岐にあるのか」と,首を捻るような嘘っぽい Riccardia はこれで 4種になる。検索表(平凡社版)に「広島・鹿児島県の花崗岩上」となっているのが困るが,まさか「他には無い」という意味ではないであろう。よほどの理由がない限りそんなことは言えないはずだ。これが維管束植物であったら大騒ぎをするところだが,コケの場合こんな経験を何度もしているので「またか」と思う。コケの分布は調査が十分できてないようだ。せめてシダ並になって欲しい。
渓流の常に水に濡れているような岩壁にあったので,ナガサキテングサゴケかナミガタスジゴケかの,どちらかに違いないと思った。クシノハスジゴケはびしょ濡れの岩上ではあまり見たことがないし,ルーペでも大体分かる(翼部が広くて透明)。それ以外の種があるとは思っていなかった。現地でしばらく採集を迷っていたが,初めて行った場所であるので「義務的に,厭々」持ち帰った。
油体に著しい特徴があって,顕微鏡を覗いた途端に未知のものだと確信した。検索表(T. Furuki 1991)では何の問題もなく本種に行き着く。分類が明確になっていて気持ちがよい。
◎ 確認済 ◎
(1) 表皮細胞で, 油体細胞 : 通常細胞= 1 : 4-6 ・・・ 場所によって粗密はある。
(2) 油体の大きさ, 表皮細胞 : 内部細胞= 1 : 2-3 ・・・ 明瞭。こんな種は限られる。
△ 未確認 △
(1) 乾燥標本の色が灰色っぽい茶色(whitish to pale brown)で暗褐色ではない。
(2) 記載も図も油体が球形〜卵形となっているが,標本ではすべてがきれいな球で,卵形のものをまだ見てない。
今回の標本では,表皮・内部ともそれぞれ油体の大きさと形がきちんと揃っている。そのため,両者の大きさの違いが際立ち,いつまでも忘れそうにないような見事な対照を作っていた。
油体が,「球状・ 1個ずつ・内部は表皮の 2-3倍」のものは,他にキテングサゴケ R. flavovirens があるが,表皮の全細胞に油体がある点が異なる。なお,キテングサゴケも濡れた岩上〜水中性だという。当分の間,浸水性の Riccardia は,全て持ち帰ることになりそうだ。
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山茶花の 蕾(つぼみ)そろひぬ 初時雨 山口青邨
みせばやの 葉をばらいろに 初時雨 有馬籌子
樹下のまだ 濡れざるところ 初時雨 有山八洲彦