前回の時の標本は，量がごく少なく生長状態もよくなかった。今回は胞子体をぎっしりつけた大きな群落で，しばらく見とれたほどだった。これが本種の本来の姿なんだろう。林内の渓側でやや明るい岩の斜面，常に水がにじむような場所でアカスジゴケ Epipterygium tozeri とシメリイワゴケ Dichodontium pellucidum の立派な群生に接していた。
これだけ量があってよく成長したものなら，名前はすぐ分かるだろうと思ったのだがそうでもなかった。ホウオウゴケ属の「雌花（雌植物）」について無知だったのと，「雌苞葉（群）」を一番内側の「内雌苞葉（1対）」と勘違いしたためである。
「葉の全周に舷があって，かつ�櫃�曲がらない」グループは，茎に側生する「雌花」があるかないかで2つに分かれる。数例観察した時，茎に頂生しているのが多いが，更に茎の途中（葉腋）からも結構胞子体が伸びていて，最初これを「枝」が出てそれに頂生しているのだと思ってしまった。実はこれが，「短くて細い雌苞葉」を伴った雌花なのだが，時に長く伸びて枝そっくりになる。しかも，下部から仮根が出て茎を軽く抱いているだけで簡単にぽろっと外れる。茎とはつながっていない無性芽か幼植物のようにも見える。こんな風な雌花（胞子体）は初めて経験した。当然のことかも知れないが，雌苞葉の付き方まで Fissidens タイプになっている。
�殃舛�側生して雌苞葉が小さいことを確かめれば同定は終わる。よく似た種は，みんな�殃舛�茎に必ず頂生する。検索表にある『造卵器と�殃舛老圓紡�生または頂生，側生する花序の葉は普通葉よりずっと小さい』を，論文("A TAXONOMIC REVISION OF THE JAPANESE SPECIES OF FISSIDENS") から読み取るのに一日以上かかった。図鑑だけでは分かりっこなかったような気がする。大分疲れた。口で言えばひと言で済むのだが。
最初は，基物が湿岩ということでジョウレンホウオウゴケ F. geppii を疑っていたが，(1) 葉頂部の舷（通常消えない），(2) 胞子（せいぜい17μと小さい），(3) 茎の中心束（やや弱いが明瞭），(4) 背翼の葉身細胞（±10μで大きい），(5) 基物（水浸しではない），などの点で否定した。胞子体が（側生して）2本以上付くことがあるという違いは後で気付いた。
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かたまりて 吹かれてをりぬ 蓼の花 原田青児
しづけさに たゝかふ蟹（かに）や 蓼の花 石田波郷
秋深けて 冴え残りけり 蓼の花 牧野富太郎
東京で見たツクシホウオウゴケは、「枝そっくり」にはなりませんね。そういうものをみたことがありません。肉眼では雌苞葉の存在が分からないほど小さいです。