茎の長さが1cm前後の小さな苔。学名通りの暗緑色,渓流の水際の岩上にぴったり貼り付いていた。水量が増すとすぐに水に浸かるような位置で,同じ環境にあるナガサキテングサゴケ(スジゴケ科)を採っていて見付けた。と言うよりも「偶然に見付かった」が正しい。
またオオホウキゴケ J. infusca かと思ったが,あまりに水に近すぎて場所が変である。長く飛び出した棍棒状の花被がルーペで見えたので,知らない種だとすぐに気付いた。コケ採集で一番痛快な瞬間である。長いヘラのような花被の形もだが,ペリギニウムの全くない Jungermannia は初めて経験した。そういうのは少数派なので同定の手間が随分省ける。「花被の先が嘴状に尖らない」を加えて,いきなり4種に絞られてしまった(平凡社図鑑)。
雌雄同株のチャボツボミゴケ J. pumila は雌雄列立同株(paroicous)であるし雄株も見付かったので,雌雄異株であることは間違いない。そして,葉は長さが幅より長く(±1*0.75mm)高山性でもないので,ヒロハツボミゴケ J. exertifolia か エゾツボミゴケ J. atrovirens の2種に限定される。
平凡社版の検索表で,茎の長さや葉の形も本種の方を指しているが,「油体の眼点」が最も安心できる形質であろう。ゴツゴツした感じの大型の紡錘体の中心に瞳のような大きな眼点がある。ただしこの眼点はうっかりすると見落としそうなかすかな(薄っすらした)もので,全部の細胞にあるわけでもない。今回もしばらく気付かなかった。
「知っていてそれを捜すのと,知らないでいて自然にそのことに気付くのと」,一体どちらにすべきだろうか。図鑑を読まないでおいて,虚心(無知)の状態から観察を始めるのが,大人の態度だという気がする。今までは,「こうだろああだろ,何だろ」と結論を急ぎすぎていた。
よく似たヒロハツボミゴケの方が普通種のようであるが,水辺の岩上という環境が共通なので,野外では区別できそうにない。しばらくは,「似たものは皆採る」ということで行こう。
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だれもみな 少女にかへり 野菊径(みち) 新明セツ子
らんぼうに 野菊を摘んで 未婚なり 秋元不死男
控えめの 女が好きです 野紺菊 清水うた子
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の25ページ目に書かれてあります。
油体の無いタイプ ssp. atrovirens は日本初の記録かもしれません。
引用文献(1998 講演要旨)をメールで送付します。