(1) 観察
一番よくないのは結果を急ぐことだ。「時間は無限にある」とのんびりした気分で向かうのがよい。ここにかけた時間は決して無駄にはならない。「すべてを見尽くしてやろう」くらいの意地悪い気持ちも結構。図鑑に書いてない有力な特徴に気付くこともある。初めての種の時は,場所や個体を変えて複数回観察する。一点集中だと一を十だと思いやすい。顕微鏡下で道草を楽しみグズグズ・キョロキョロ見回すのがよい。
(2) 同定
同定の根拠を明文化すること。同時に不安点もメモして残すこと。結論が合っているかどうかより,自分が下した判断に責任を取れるかどうかが大切である。当て物ではないのだから正解が貴いわけではない。自分に恥じるような決着をつけるより,まだしも「保留」する度量を!敗退ではなく楽しみを後に延ばすと思えばよい。ここの部分だけを必死に頑張り勝ちなので気をつけよう。
(3) 整理
他の近縁種と比較して,その種を特徴づける条件を3項目程度にまとめる。これが種の個性を浮き彫りにすることになり,この作業を通じて理解が深まる。検索表の経路は,通常は最良の理解形式とはいえない。検索表は全種を振り分けるためのもので,そもそも目的が異なる。特定の種を特徴づけるには無駄が多く,最適の形質が選ばれているとも限らない。ここまで済んで,初めて「分かった」という気持ちがやって来る。
(4) 実感
これはその種の像がありありと浮かぶかどうかの問題。あるいは,肉眼やルーペだけで見当がつけられるかどうか。もちろん曖昧であってかまわない。分析的な同定作業とは異質な認識なので,自分なりのイメージ作成またはどう思い浮かべるかの練習が必要になる。文章で表現できない種類の感覚である(例えば色や光沢,柔らかさ,姿,…)。直感的に把握できないと本当に自分のものだという気はしないものだ。採集行も楽しくない。専門家はこの部分がすごい。見た途端に名前が分かってしまう。回数を重ねると段々そうなることもあるが効率よくゆきたい。
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はや秋や 書屋(しょおく)の窓に 萩ゆれて 山口青邨
サルビヤの 朱(あけ)の大円 秋の園 山口青邨
山の秋 咲いて小さき ものばかり 鈴木恵美子