ネジクチゴケ B. unguiculata に似ていると思ったが,場所が場所なので(落葉樹林帯の湿岩)少し持ち帰った。結論に確信はないがセンボンゴケ科であることは間違いない。属の数が 25もあって決定するまでが大変だ。しかも,キーとなる分類形質が例外を含むようで,検索表だけに頼るのはかなり危ない気がする。
印象としては,・葉が細長く(1.6*0.4mm)両縁が平行,・先端に来て急に(広く)尖り鈍頭,・上半部は葉縁に不規則なざらつきが出る,・中肋は太く背側に隆起,葉頂付近で突然消える,・葉縁は平坦,葉はやや疎らについて,・乾くと強く巻縮する(管状にはならない),といったものである。初めて見た種であることは明白なのだが・・・。
茎の表皮細胞は,厚膜で肥大はせず明瞭な中心束を持つ。葉の中肋はガイドセルの背腹両側にステライドがある。一番よい特徴は,葉身細胞が基本的には弱いマミラ状で,一部に低い三角形のパピラ状のふくらみが見られることだろう。
あり得ない属を消していったら本属 1つが残った。本種にするしかないのだが気に入らない点が大分ある。
(1) "MOSS FLORA" の図のように,「葉下部が幅広く」はならない。K. Saito (1975) の図なら合格。
(2) 葉身細胞の背面は平滑とされているが,背腹の差はなく両面とも(部分的には)かなり細胞膜の突出が目立つことがある。中肋背側,先端付近のゴツゴツした突起も気になる。
(3) 葉身上部のギザギザについての言及がはっきりしない。WEB上の“Moss Flora of China” には「Serrulate」となっていてぴったり!合う。
(4) 基部葉縁には小さな矩形の細胞が並んでいるのだが,文献の図版では細長い。これも相当気になる。
正体のはっきりしない種なので「嘘だか本当だか」という気分だが,
http://nh.kanagawa-museum.jp/kenkyu/nhr/26/26_21_30.pdf
の報告は興味深かった。「ネジクチゴケに似たものに気をつける」ことにしよう。
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ほたる火や 馬鈴薯の花 ぬるる夜を 飯田蛇笏
竹林に 螢の星座 組まれけり 渡辺恭子
大螢 ゆらりゆらりと 通りけり 一茶