渓流内の岩壁に貼り付いていたものを,何気なくつまんでルーペで覗いたら葉先の小さな湾入が目についた。苔類という奴はまず手にとってみないとどうにもならない。面白い形なのですぐに名前は分かるはずと思ったがそうもいかなかった。葉の先がへこむ苔は意外に数が多い。
葉先のイメージにつられてヤバネゴケ科から見始めたが,この科は「葉が瓦状につき,腹葉は無いかごく小さい(茎径以下)」ということを知って,ツキヌキゴケ科に変更。
植物体には透明感がなく濃い緑色,油体が 10個以上と多く“無数の”微粒からなるので,アオホラゴケモドキ属であろう。「アオ」は「緑」の意。仮にツキヌキゴケ属 Calypogeia だとすると,検索表からはミヤマホラゴケモドキ C. integristipula しか該当がないが,「・葉が円頭,全縁,・細胞の表面が平滑,・亜高山帯」という点で一致しない。
図鑑の記載で以下の 2つにはかなり困った。平凡社・保育社共通。
(1) 「腹葉は葉の約 1/10大」・・・・どこを測ったんだろうか?図からは全然そんな風には見えない。
(2) 「トリゴンは大きい」・・・・確かに小さくもないが微妙。これも図の方を信用することにする。「角隅は三角形で小さい (H. Inoue 1973)」という記述が見付かって本当にホッとした。
葉形には変化が多いようで,先が「鋭―鈍―凹頭,またはわずかに 2歯」となっている。2歯が全く出ない型は野外での認識が難しそうだ。また,「油体に膜があり」という表現もあるが,確かに黒い縁取りが感じられる。「油体が灰褐色」については,影がありやや暗く時に黄色味を帯びるといった程度だった。細胞表面に微細な点をまき散らしたような「ベルカ」があるが,見えない場合もあるのでよく捜すこと。
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白となる 前のさみどり 山法師 河野美奇
葉の上に 花のさざ波 山帽子 井沢佐江子
その白き 下に憩ひぬ 山法師 原田玲子