余りよく知らない種は(1,2回目),できれば典型的な形(記載とぴったり一致する)の個体で同定したいと思う。しかし,なかなか思い通りには行かないものだ。
本種は「Y字条溝が“明瞭”で,求心面のパピラはほとんどない( 3面の中心部のみ)」とされている。ところが,採集品ではY字条溝は見えず,尖った突起は全面にあった。文字通り解釈すれば別の種ということになるが,とてもそうは思えない。ミヤケツノゴケ P. laevis の可能性も多少はあるが,無性芽が全くない。造精器を捜して雌雄同株かどうかを確かめる意欲も湧かない。もう少し経験が増えれば自然に解決するであろう。
むしろ今回はスパッと結論が出なかったおかげでツノゴケ類の地識が増えた。
(1) 「胞子の色が黄色か黒褐色か」は重要な分類形質である。熟すると飛び散って自分自身も胞子をかぶる。
(2) 「葉状体内部の細胞間隙」とは,大きな空洞ができることらしい。
(3) 時々見られる噴火口のようなイボは,造精器を容れる部屋である。
(4) ミヤベツノゴケ Folioceros fuciformis の〔朔〕の表皮細胞は極端に厚壁で細胞腔がつぶれることもある。弾糸の細胞壁の肥厚も顕著で,細胞腔がしばしばスリット状に細くなる。
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薔薇赤し そのほかのこと 考へず 星野麥丘人
そこはかと 薔薇の溜息 らしきもの 後藤夜半
名は晶子(あきこ) 魂の名は 赤い薔薇 高澤晶子