同定のレベルを 3段階に分けている。 1:不安が一杯,合っているかどうかは五分五分。 2:自信はあるが不十分,70%程度の確実性。 3:まず間違いない,一応同定終了。
前々回のススキゴケがレベル 2から 3になった。胞子体が多少ついた(やや古い)ものを採集したので,ホウライオバナゴケ D. coarctata と細かく比較してみたためである。時間をかけてしつこく見ていたら違いが分かって来た。もう野外でも大丈夫だと思う。しかし,それを他人に伝えようとすると難しい。
<ススキゴケ>
(1) 全体に細くてしなやか,葉はゆるくカーブし濃緑で弱い光沢がある。胞子体は晩秋に成熟。
(2) 通常は葉縁の歯(細かい)が明瞭で,特に芒状先端部の棘は数多く鋭い。
(3) 葉身中部にも狭いながら葉身部が確認できる。
(4) 葉基部は狭い長三角形で(鞘とは言えない!)そのまま芒状部に漸尖する。肩のあるものはまずない。
(5) 〔朔〕柄は細くてよじれる傾向があり,しばしば湾曲して垂れる。〔朔〕の皺は浅く不規則であったりなかったり。
(6) 内雌苞葉の鞘部は長くはない。基部の幅が狭くなることもない。
(7) 小さな口環細胞らしきものが,1,2列口部を縁取るが,とても「口環」とは言えない。「無し」としておいてよいだろう(poorly developed)。
<ホウライオバナゴケ>
(1) 茎葉体は固く直線的で剛直。しばしば黄色味を帯びる。胞子体は初夏に成熟。
(2) 葉縁の歯はごく低く不明瞭,芒状部の棘もほとんどない。
(3) 葉身中部くらいからほとんど中肋のみになる。
(4) 幅広い鞘状の基部から急に芒状になり,移行部ははっきり肩状に張る(多少の例外あり)。
(5) 〔朔〕柄も〔朔〕もまっすぐで直立。〔朔〕の縦皺(凹み)は縦に揃って明瞭。
(6) 内雌苞葉の鞘部は大きく長くよく目立つ。肩の部分より下部がはっきりと狭く見える。
(7) 「大きな長い細胞」からなる明瞭な口環がある。ただ,落ちやすいのか常にあるわけではないのか,部分的にしか確認にできなくて時間がかかった。成熟した新鮮な〔朔〕ではないためか?
よい状態の胞子体を比較すれば,大きな差異があると思うが今後に期したい。珍しい種ではないのにススキゴケに今まで気付かなかった。胞子体をつけにくいのかも知れない。ホウライオバナゴケの方はどっさりつける。
なお,葉身細胞の大きさの比較は考えないことにした。だいたい,どの位置を測っているのかはっきりしないし,文献による食い違いも大き過ぎる。
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ゆく春の とどまる処 遅ざくら 召波
山里は 静かに昏れて 遅桜 棗美紗子
余生とて 雑事きりなし 遅桜 鈴木恵香