林道沿いの小さな滝の近く(alt. 400m),湿り勝ちの明るい岩壁に沢山ある。以前から見ていたがツツクチヒゲゴケ Oxystegus tenuirostris と思って採集してなかった。今回もそう思い込んでいたが,少し葉が小さいのでちょっとだけ持ち帰った。
茎の高さは 1.5cm程度,葉は幅が一定で細長く,大きいもので 2.5×0.3mm。葉先は尖り,中肋は葉頂に達する。湿ると葉が背方に反り返り,乾くと縮れる。葉がもろくポロポロと壊れるのも O. tenuirostris によく似ている。しかし詳しく見ると,「葉が管状になりそれが更に巻縮」するというような縮れ方ではなく,葉身のもろさもこちらの方が極端である。
検鏡してみて全く別のものであることが分かった。葉の全体が,(半)球形の透明なパピラにびっしり覆われている(細胞腔・壁を問わず)。パピラというよりベルカと言うべきかも知れない。上半部に不定の低い鋸歯が出ることがあるがその歯までパピラで包まれている。中肋の背腹両面も例外ではなく,驚いたことに茎の表皮上まで低い透明なイボが並んでいる。
そしてこのイボが上半部では球形であるが,1/2 の辺りから段々長くなって楕円状に伸びて来る。下半部の細胞は長い矩形で著しく厚壁になるが,その「腔上に桿菌が寄生した」ようなベルカに変わる。桿菌は細長く数も多くて明瞭,最下端部まで続く。こんなのは初めて見た。
茎の断面を見たら三角形になっていてこれにも驚いた。中心束は全くなく,表皮細胞は厚壁。葉身細胞は方形〜横長の矩形で ±7.5μm。細胞の境界はベルカを通して明るく透けて見える。中肋には明瞭なステライドはない。
センボンゴケ科を探しまわったがこれというのが見付からない。エゾノタマゴケ Plagiopus oederi なる種も検討したが全然違う。もうすることがなくなってしまった。そして狐につままれたような気分である。
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パステル画 さながらに萌え 木の芽山 原田魚梯
声高き 鳥が小枝に 芽吹山 高江洲弘子
木の芽山 微熱の山と なりにけり 大牧広