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丹後の日記

ススキゴケ Dicranella heteromalla編集する
2008年04月30日15:59全体に公開
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「なぜ無いのだろう」と捜していた種だが,とうとう見付けたかも知れない。林道脇の湿った岩の斜面に(alt. 430m),鮮やかな濃緑色のマットを広げていた。高さ 1cm程度で,葉は弱く偏向(homomallous)しやや光沢を感じる。繊細で綺麗な印象の蘚である。

実は採集はかなり躊躇した。既知のシッポゴケ属の小さいもの,あるいは持って帰ってもどうせ分からない,と思ったためである。ルーペで覗いて,葉の「細さ」が今までのものより一クラス上のような・・・で,その気になった。しかし,期待値はほとんどゼロのままだった。

種が 20もある上に,難しいとされている Dicranella。胞子体なしでどうなるんだろうと憂鬱だったが,検索表に向かったら意外に速く候補がしぼられた。・葉先が鋭頭で,・中肋が幅広い(基部で葉身の 1/3)から,・コブオバナゴケ D. cerviculata,・ススキゴケ D. heteromalla,・ミチノクオバナゴケ D. dilatatinervis,・ホウライオバナゴケ D. coarctata,の 4種に限定される。

この内,D. cerviculata と,D. coarctata は何度か採集して知っている。違いは色々あるが,第一印象では鞘部の形がまるで異なって見えた。D. cerviculata は卵形で「ふっくら」しており,D. coarctata は「明瞭な肩」がある。本品は,狭い三角形で直線的に細くなり肩を全く感じない(広がろうとせず一目散に狭まる)。鞘部が狭く葉が細い線に見えほとんど中肋だけからできているように思ったが,顕微鏡で見ると上の方までごく狭い葉身部をともなっていて溝のように凹んでいる。葉縁には鋸歯がはっきり見え,先端は円い棒になり棘が多い。

残るは,D. dilatatinervis であるが,図で見ると(Noguchi 1987)葉身上部の葉の細さが違う。鞘部の細胞が薄壁というのも違う。本品の葉は上部 2/3が針状に長く伸び,鞘部の細胞はむしろ厚壁である。

断面で見ると中肋が突然山のように盛り上がり,その不釣り合いな分厚さに驚く。平凡社の図鑑の断面図もあながち大袈裟とは言えない。背腹両面に表皮細胞が整然と並び,中央に巨大なガイドセルがずらりとある。その背腹両側に明瞭なステライドがたっぷりとあって壮観である。他の種がどうなっているか分からないのだが,これは本種の特徴かも知れない。

なお,平凡社の図鑑に『鞘部中部の細胞は矩形で長さ 65 - 85 μm』となっているがこれは何かの間違い(複数の文献で確認)。長いものでも 30μm強,普通は 20μm前後であった。


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 いちじくの 葉の幼さよ 鯉のぼり     入沢白鳥
 梨棚の 花の盛りの 鯉幟         清崎敏郎
 鯉幟 立ちて菜園 みづみづし      水原秋櫻子

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