学名は Meteorium buchananii ssp. helminthocladulum var. cuspidatum (Okam.) Nog. (1976) のようである。原記載は Meteorium cuspidatum S. Okamura (1911)。
未知のコケを現地で初めて目にした時,それぞれの印象が記憶に残るものだが,この種には一番驚いた。しわくちゃな毛糸を樹肌(細い幹)にどっさり貼り付けたような感じで,くるくる巻いて激しくのたくって垂れる。
コハイヒモゴケ M. buchananii ssp. helminthocladulum var. helminthocladulum との区別については,葉身細胞の大きさを見るのが確実だと思う。本種は長さ 15-25μだが大多数が 20μ前後である。コハイヒモゴケの方ははっきりと大きく長さ 25-35μ,変化はあるが 30μくらいのものが多い( 1.5倍)。
比較して見るとその違いは一目瞭然である。本種は長めの菱形で細胞壁はやや厚壁,真っ直ぐで両端は尖り,形も大きな変化がない。コハイヒモゴケは“長い”紡錘形で極端な厚壁,しかも細胞壁はゴツゴツと不等なくびれがある。細胞の両端は太い鈍形や切形でとにかく不規則で揃っていない。
コハイヒモゴケの標本がいじけたものが少量なので,外観の違いについては責任が持てないが・・・。
(1) 葉先の突出。本種では三角形状で短くあまり鋭く尖らないが,コハイヒモゴケは細く伸び出して針状に尖る。多少の例外を含むが大勢としては明らか。
(2) コハイヒモゴケは新芽を除き真っ黒に色づく傾向が強いが,本種には黒くなった部分はほとんどない。
(3) 枝は本種の方が細く長く,曲がって円くなりやすい。コハイゴケは太くてごつく固い感じ。
現地は断崖の岩上(500m alt.)で,コハイヒモゴケを採集した唯一の場所である。今回は見付からず, 2mほどずれた場所の小さな樹木に本種がぶら下がっていた。だから家に帰って調べるまではコハイヒモゴケのつもりだった。同一地点(隠岐では特殊な場所)に変種関係の 2種が共存していて何だか気味が悪い。なお,平凡社の図鑑に記述がないのは何か理由あるんだろうか。
---------------------------------
さくら咲き 淫らなるまで 満てりけり 草間時彦
あめつちに 櫻の滿つる うつろかな 高橋睦郎
ひとはみな ひとわすれゆく さくらかな 黒田杏子