前回チヂレバツノゴケ A. subtilis としていたものの正解。"Taxonomical Studies of Asian Anthocerotae"(J. Hasegawa 1984)という詳細な論文が出て来た。これを自分が持っていることに気付いていなかった。コケの難しさの何割かは,情報不足(入手困難)が原因だとつくづく思う。
胞子の求心面の表面が『網目模様(実体はあばた状の低いふくらみ)』と思っていたが,正しくは『楕円形の凹み』である。馬蹄型で暗く見え,“網目模様”という表現がやっと納得できた。ただ,焦点をずらすと凹みの“底”や“縁”が光るのでパピラと勘違いしないよう注意しなければならない。更に,うっかりしていると求心面と遠心面を混同する。反対側の面が透けて見えるためである。
また,求心面の網目模様が必ずしも明瞭ではない場合もあるので,数多くの胞子に当たる必要がある。それから,裂開した〔朔〕を使うことも必須。未熟な胞子では間違えやすい。
そして,(チヂレバツノゴケに比べて)『刺の高さはもっと低く,鋭さも弱い』と書いたが,これは同一種内の変異ということになる。観察したのがカナダ産の標本だったからか,あるいは個体差なのか。
葉状体の背面に「ラメラ状あるいは鶏冠状の突起が不規則に出る」のが本種の特徴で,チヂレバツノゴケはそうはならない(ほとんどの場合)。胞子以外の相違点としてはこれが分かりやすい。
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いぬふぐり 屈(かが)めば風の なかりけり 山田孝浩
いぬふぐり 咲くよろこびに 遠けれど 野見山朱鳥
犬ふぐり その他よきこと あれとこれ 池内友次郎