間違って同定してトサカゴケになっていた標本だが,正しくは何なのか結局分からなかった。Lophocolea の全 7種,遠そうなものから順に消してみた。
× (1) ヒメトサカゴケ L. minol
葉身細胞が(明瞭に)やや厚壁。L. minol は(はっきりと)薄壁。無性芽もほとんどついてない。
× (2) トサカゴケ L. heterophylla
「雄苞葉は花被の直下につく」ことはない。これは明快。
× (3) イトウトサカゴケ L. itoana
油体に大きな眼点がない。高地性でもない。
× (4) トガリバトサカゴケ L. bidentata
2裂した葉先の裂片が鋭く針状に尖ることはない。L. bidentata は分布の限られた稀産種。
× (5) エゾトサカゴケ L. compacta
円頭の葉はほとんどない。花被の稜に顕著な翼は見られない。雌花の近辺に雄花は無い。
× (6) ナカジマトサカゴケ L. nakajimae
雌苞葉が激しく鋸歯状にはならない。腹葉の幅は茎の 2倍もない。
残った本種 L. horikawana の特徴は,
(1) 花被の口部の鋸歯が目立たない(ほぼ全縁)。
(2) 腹葉の幅が茎の径以下。
ということである(H. Inoue 1959)。(2) についてはまあいいだろうという感想であるが,(1) が非常に気にかかる。本標本は鋸歯が激しすぎると思う。
雌雄異株だろうと思われる点と,常に落葉樹林帯の岩上に生えるという生態は,気に入っている。かなり変わった外観のもので,灰色を帯びた鈍い緑色をして,岩の上に薄くぴったり貼り付いていた(大群落)。大きな花被を無数につけ,雄花だけからなる個体も交じる。
生植物について観察を続けることにする。特に腹葉をよく調べたい。雌苞葉や腹苞葉(bracteole)の検討も不十分なままだ。ヒメとトサカの 2種以外は要注目種と思うのでいずれ専門家に同定を依頼した方がよいが,自分なりの結論が出てからである。
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誰も来ぬ 一日暮れゆく 青木の実 室賀映字朗
夕凍(ゆうじみ)の にはかに迫る 青木の実 飯田龍太
余生をも 愚直に生きむ 青木の実 新津静香