この属ではタチヒダゴケ O. consobrinum がお馴染みだが,他の種はみんな稀産のようである。本種も平凡社の図鑑で「低地の樹幹に着生するが稀」となっている。かろうじて,広島・岡山・島根・兵庫・京都・静岡の記録を確認できた。東アジアと北米東部に隔離分布するようだが,アメリカでも極端に稀らしい。
隣家の畑の柿の木へ,キヌゴケ Pylaisia brotheri の様子を時々見に行っているが,今回は老眼鏡をかけていたので気が付いた。混生していたタチヒダゴケは〔朔〕も大きいし,団子の様に固まって盛り上がる感じでよく目立つが,こちらは小さくて非常に見えにくい。 1本ずつ直立し(高さ 4mmほど)むしろ散生,〔朔〕も口部がやっと雌苞葉の高さで,細長く外へ伸び出すようにはならない。タチヒダゴケでないことは,他にも「葉の数が少なく極端に小さい(1/2)」ことからも明瞭である。
種の検索では,〔朔〕の「気孔が沈生か表生か」が問題になるが,本種の気孔は下の頸の方にしかなくて見付けるのが容易ではない。むしろ「沈生(孔辺細胞が無く不定形の穴があく)ではない」ことを確かめるのがよいかも知れない。ただし,ミクロ的には以下の特徴があって同定は難しくない。
(1) 葉身細胞には明瞭な 4-5個のパピラがあってよく目立つ。細胞壁に沿って並びややC字状に見える。他の種は小さいのが(?) 1-2個で,タチヒダゴケなどは有ったり無かったりでほとんど見えないことも多い。
(2) 葉身細胞は角張っていて薄壁,他の種のように厚角・厚壁ではない。ただし,この点については変異があるかも知れない。
(3) 量は少ないが 1列の数細胞からなる無性芽が葉上についていた。
(4) 葉は下方で小さくて少なく,茎の頂部で大きくて多くなるので,乾くと全体が棍棒のように見える。
(5) 葉縁基部は細長く下延する。しかし,剥がした葉ではちぎれて分からなくなる。
自宅の目の前に未知の種があってあきれた。沢山あるのだが一ヶ所だけで,何本もある近くの木(カキノキ)には全くない。キヌゴケやタチヒダゴケはついているのだが・・・。よく分からない理由があるのであろう。
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波音の あけくれ梅の 咲きにけり 山本蓬郎
隅々に 残る寒さや うめの花 蕪村
満開の 梅をさびしむ 齢(よわい)かな 鮒田美智子
そんなに希ではないと踏んでいるのですが、小さいので見つけるのは一苦労ですね。
特にタチヒダゴケと同じ木に付いていたら特徴を捉えないと難しいのかもしれません。
葉の上に無性芽がよく付くので小型のタチヒダゴケ属を高倍率のルーペでなめ回すように見るとよくわかります。
>そんなに希ではないと踏んでいるのですが、
やはりそうですか。本当に稀なのか,単に「小さくて見付けにくい」,あるいは「他種と似ていて見逃しやすい」だけなのか,考え込むことがよくあります。考えても分かりはしないですが。こういうのは,コケ以外ではあまり経験しなかった現象です。
ただ,専門家が全国的な視野で考えた場合,ほとんどの種が普通種になってしまい,無差別で面白くないとは感じます。全国的な分布とは別に,地域を限った 6段階表示(ごく普通・普通・やや普通・やや稀・稀・ごく稀)ができないものかと思っています。
コタチヒダゴケ同様採集記録は少ないようですが,「見つけにくいが故の稀産種」という可能性はあります。
山口:なし, 岡山:極稀, 広島:なし, 福島:なし, 大分:なし, 京都:なし, 愛媛:なし, 神奈川:稀, 千葉:なし, 埼玉:有り, 三重:極稀, 屋久島:なし
ここに挙げたのはコケの先進県で,非常によく調べられています。あと広大のデータベースも参考になりますが,標本が0点!私はここに少ないことを「すごさ」の判断基準にしています。
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埼玉では確認されているにもかかわらず、なぜかレッドリストにありませんね。不思議です。