最近まで Pleuridium julaceum とされていた種。"Illustrated Moss Flora of Japan (1987)" では, Known only from the type locality. となっている。それ以後も,タイプ産地の小石川植物園で一度採集(Matsui and Iwatsuki 1990)されたことがあるだけのようだ。 従って,「我が同定」の間違いは 100%確実ということになる。
買い物の途中,水田の土手(裸地)に点状の塊がポツンポツンとあった。小さなもので,茎の高さ±4mm,葉は 0.5-1.0mm×±0.3mm程度。何かの新芽かと思ったが,葉が茎にピタリと貼り付いて(覆瓦状)丸い棒を立てたような姿で,「今まで見たことがないぞ」という気がした。乾かしても水に濡らしても葉は茎に接したままで変化しない。こんなのはあまり記憶にないので,特徴の一つと言えるかも知れない。
その他に印象的だったのは,(1) 中肋はやや弱いが幅広で葉身の 1/4-1/3,(2) そのままの幅を保って少し突出,(3) 中肋の先端が“鈍”!なことである。こういう形も今まで見たことがない。あと,中肋腹面の表皮細胞が巨大な矩形(葉身部の 2-3倍)であることにもびっくりした。切片でも腹側の表皮細胞がよく目立つ。ステライドは背側のみに発達する(ガイドセルはあったりなかったり)。また,葉縁は平坦であるが,時々先端の方で管状に内曲する傾向がある。
大した証拠もないのに仮に本種としたのは,"MOSS FLORA" にある葉形図に惚れ込んだためである(記載も合う)。もう少し長く卵状〜卵状披針形の葉も交じるが,この図の印象は何ともいえないほど独特な感じで採集品とぴったり。ネット上の「Moss Flora of China」 には円頭で中肋が葉頂に達しない図があって不安になったが,記載を読むと葉形はかなり変化するようである。記載とはよく合っている。産地が Alpine meadow となっていてイヤな気分になったが,緯度が沖縄よりずっと南なのでよしとする。
"MOSS FLORA" では Sporophyte unknown. であるが,中国では(旧 A. sinensis)は〔朔〕をつけるそうである。実は日本でも〔朔〕をつけるらしい。今までにも一年以上観察を続けてやっと分かった種が何種かあるが,本種は胞子体を見付けないと納得のゆく同定はできないかも知れない。消去法(他種ではあり得ない)でやれるほどの知識はない。
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枯木立 ぶっきらぼうの 美学かな 荒野桂子
チェロ聴いて 帰る枯木の 中の家 有馬朗人
枯木星 つねに何かを 希(ねが)ふべし 吉田健二