日本ではほとんど採集記録のない種のようで,他人には信じてもらえそうにない。確かに無性芽のある Pohlia のラインナップは 9種と数多いが,「葉腋に,数個ずつ,卵形の,無性芽を付ける」ということから,どうしても本種に行き着いてしまう。無性芽の形や付き方がやたらと変化するものでない限り,他種である可能性は少ないと思う。
“Illustrated Moss Flora of Japan” の記載とよく一致しているが,多少気になったことをメモしておく。
(1) 非常に柔らかく軟弱で,葉も薄く葉身細胞は疎(lax)であるが,そのことへの言及がない。 ・・・・・・この仲間に共通の性質でわざわざ言うまでもないか?
(2) 無性芽がやや小さめで,爪状の原基の出るものがごく少ない。記載 0.15-0.25 mm long に対し,±0.1 mm で 0.2 mm を越えるものがない。 ・・・・・・これが最も気がかり。今後もっと成長するのか?
(3) 葉身細胞の幅がやや広い。75-100 mm×8-10μmに対し,幅は 10-12μm。 ・・・・・・変異の範囲内か?稀産種の場合,(日本での)変異の幅が十分記載に反映されていないことはあり得る。
(4) Leaves appressed when dry. となっているが,あまりその傾向を感じない。多少よれて多少上向く程度。 ・・・・・・生育状態にもよるか?北米の図鑑の Leaves not crowded, erect-spreading or spreading, slightly contorted when dry. にはピッタリ一致。
(5) 他種では,わずかにキヘチマゴケ P. camptotrachela の可能性が考えられる。 ・・・・・・しかし,葉身細胞の幅 5-7μmは狭すぎる。
【追記】
もし無性芽が変化するものだとすれば,普通種ホソエヘチマゴケ P. proligera の可能性も皆無ではない。特に無性芽が褐色に色づくところが怪しい。
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花石蕗に 日が射してゐる 時雨かな 上田千穂
石蕗の咲く 岬のここも 隠岐の島 斉籐友栄
一生を 辞書編纂や 石蕗の花 五所平之助