2年前に 1度採集したが,同定結果にやや不安が残っていた。今回の採集を期に確実なものにしておきたいと思う。
まず属を決定しなければいけないが,クサリゴケ科は属が 25と豪華な上に検索表が極めて使いにくい。例えば,茎の分枝が「クサリゴケ型とヤスデゴケ型」対「クサリゴケ型に限る」,これをどうやって確かめるのだろう。もちろんヤスデゴケ型が見付かれば問題はないが。また,腹片の第 1歯なのか第 2歯なのか,透明細胞の位置など,豊富な経験がないととても使えない。
そこで,M. Mizutani : Arevision of Japanese Lejeuneaceae (1961) の図版を 1つずつ片っ端から見て行くことにした。これなら誰にでもできる。幸いなことに,かなり印象的な姿をしていてあまり似たものがない。今回も現地で一目見て「あっ知っているものだ」と気付いたほどである。
特にこれといった決定的な特徴はないのだが,葉が湿ると「やや背方に偏向」することはよい特徴であろう。背片が持ち上がって隙間ができるので,葉が「離在」しているように見える(実際は「ほぼ接在」)。また,先端に向かって鋭角に出る背片,背片の約 1/2と大きくてぷくっと膨れる腹片,いずれも極めて印象深い。言語化できないが鮮明な「あの感じ」といったものがある。シゲリゴケ属 Cheilolejeunea にやや似た形のものがあるが,そちらは油体が葡萄房状なので排除できる。
背片と腹片のバランスや形が独特で,同属中にも混同しそうなものはない。ただ,前記論文以降に本種から分離された,モエギコミミゴケ L. pallide-virens (「トリゴンが大きい」)とヒメコミミゴケ L. curviloba (「腹葉の基部が弱い耳状」)については,検索表の短文しか手掛かりがない。だけど,平凡社図鑑の本種の記載にきちんと一致するので大丈夫ということにする。保育社の図鑑には載っていない。
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蕎麦植ゑて 人住みけるよ 藪の中 正岡子規
そば刈て 居るや我(わが)行 道のはた 蕪村
蕎麦刈に かまはず山の 日は落ちぬ 菅原師竹