陰湿な林内,大スギの根元に純群落を作って貼り付いていた。青白く見える大きな広がりだったので一応ルーペで見ておこうかと思った。どうも真剣さが足りない感じだ。「目の前のすべてのコケについて,名前がその場で言えないものはすべてルーペでチェック,そして曖昧なものはすべて採集」。それくらいの意気込みがなければ駄目かも知れない。
ルーペで覗いて本種であることはすぐに分かった。現地で種名が簡単に特定できる数少ないものの一つである。もちろん特異な形態を知っていたからで,そうでなければヤバネゴケ科であることなど分かりはしない。茎が平たく潰れて茎葉体と葉状体の中間形に見える。形が葉状体に近づくことにあまりメリットがないのか,Shiffneria は世界に 1種だけだそうである。
もちろん本種の図版を一度でも目にしていれば間違えようがないが,細胞が巨大で中央部がふくらみ,葉面がキラキラ光ることも印象的だった。顕微鏡下では,油体がないように見えたが,微細な油滴状に数個散らばっていた。ほとんどない細胞もある。これは一つの特徴であろう。
どなたの採集かはっきりしないが(堀川 or 井上?),隠岐産の記録が書物に出てくる数少ない苔類の一つである。気になって探していたが今頃やっと気付く(苔類で 75番目)ということは,量の多くないことを予測させる。
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此辺の 道はよく知り 赤のまゝ 高濱虚子
日の匂ひ まといて赤の まんまかな 松浦光子
赤のまま 群れゐて何も 起らざる 村山美代子