隠岐最高峰の山頂(607m alt.)で樹幹についているのを,一度だけ採集したことがある。そのため漠然と「山地にあって少ないもの」という印象を持っていた。今回の採集場所は幹線道路(田舎だが)のコンクリート擁壁である。普通の植物では考えられないが,コケではこういうことを何度か経験した。
コバノイトゴケ H. pseudo-triste,イワイトゴケモドキ H. sieboldii,ナガスジイトゴケ H. longinerve を含めた 4種のうち,「道路際に出てこない」のは H. longinerve だけのような気がしてきた。本属には他に石灰岩地の稀産種ムチエダイトゴケ H. flagelliforme があるが,これは一生出会えそうにないので考えないことにする。
H. siebodii,H. longinerve の 2種は葉先が鋭頭になって分かりやすいが,普通種 H. pseudo-triste との区別は,簡単なようで曖昧である。大きさ以外の差異はないようで,葉の形や中肋の長さはあまり当てにならない。もっとも,大きさの違いはかなりのものだし,「葉のこぼれやすさ」という面白い相違点もある。本種は葉がもろく,はがそうとするとポロポロ落ちる。葉先が取れて坊主のような枝が見られることもある。H. pseudo-triste も多少はもろいがこれほどのことはない。
以下は実測値の一例である。葉身の幅が分かりやすい。
H. triste
葉: 長さは普通 0.7-0.8mm,幅は 0.3-0.35mm。 葉身細胞長径: 10μ以上。
H. pseudo-triste
葉: 長さは 0.5(0.6)mm,幅は 0.25mmまで。 葉身細胞長径: 7μ未満。
<追記>
どうも,H. pseudo-triste には,円頭型と鋭(鈍)頭型の 2型があるようだ。鋭頭型だとむしろ H. sieboldii との識別が問題になる。
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咲き古りし くさぎの花や 秋の風 * 柳之
階(かい)下りし スカートに入る 秋の風 金子酒音留
昂(たか)ぶれる 人見て悲し 秋の風 高濱虚子