恐怖のツボミゴケ属。他に人里で目にすることができる Jungermannia はオオホウキゴケ J. infusca ぐらいしかない。初心者がまず出会うものといえば,これに近縁属のアカウロコゴケ Nardia assamica を加えた 3種に限られると思う。本種には目立った特徴がなくて困るが,低地の普通種ということが最大の特徴かも知れない。近くに普通にあることを確めたら,後は J. infusca でないことをはっきりさせればよい。
よく陽の当たる道端の崖,岩と粘土質の土に薄く貼り付いていた。採集するのは初めてだが「このような場所にこのようなコケがあった」という既視感がある。オオホウキゴケと似たような場所なのだが,もっと群落が広くて薄べったく,盛り上がるような感じはしない。採集は爪で掻き取るしかなかった。
平凡社版の検索表で一番迷うのが,葉の長さと幅を比べる個所である。初めは「幅が長さと同じかより広い」を選んだが,該当する種がなかった。もう一方の枝をたどると J. infusca か本種のいずれかとなる。両種の一番分かり易い相違点は,細胞内に占める油体の量であろう。 J. infusca の油体は細胞内に充満する感じで(隙間が狭い),細胞が薄暗く見えるほど。これは J. infusca 独特の非常によい特徴である。
採品では,楕円体〜紡錘体(to 17*6μ)の油体 2〜5個が普通であったが,しばしば小さい球形(径 6μ)のものが混じってもっと数が多くなることもある。個体により葉によって油体の数に変化はあるが,細胞腔を埋めるような感じは与えない。
唯一の気がかりは,「花被は不明瞭な 3稜」という点で,もっと多稜の花被もあった。追跡が必要だ。
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草深く ひくゝ鳴きゐる 虫もあり 星野立子
茨野や 夜はうつくしき 虫の声 蕪村
しんしんと 星座歩める 虫浄土 山田弘子