初めて気が付いた。ありふれた種のようであるが,隠岐の緯度でもそうなのかどうかははっきりしない。ただ,時々見かける別属のヤマトコミミゴケ Lejeunea japonica と思って見落としていた可能性はある。苔類には「見付かってやらないぞ」と,隠れているようなのが多くて困ったものだ。
腹片が細い矩形で長く,キールが直線状(膨らまない)なことが,著しい特徴である。保育社図鑑の原色図のイメージが頭にあって,まず本種であろうと見当をつけた。
属の検索表だが,平凡社の図鑑は「分枝の型」を使っている。分枝はすべてクサリゴケ型と思ったが,透明細胞の位置が分かりにくいので保育社の図鑑を使うことにした。こちらに洩れている属があるが,「鹿児島〜琉球」に分布の限られるものがほとんどで,ヨシナガクロウロコゴケ属 Dicranolejeunea と ツクシクロウロコゴケ属 Archilejeunea の 2つに気をつけさえすれば問題はない。
(1) 葉の背片は全縁で尖らず,(2) 腹葉は 1/2まで 2裂,(3) 油体は 1-2個で巨大(ブドウ房状),の特徴から,シゲリゴケ属 Cheilolejeunea であることは間違いない。そして種の検索表を見ると,・腹片の大きさ,・その形,・分布,から自動的に本種になってしまう。
しかし,「葉身細胞の壁は厚く,中間肥厚し,トリゴンはやや大きい」という記載の部分がぴったりしない。それぞれ「やや厚壁,中間肥厚はごくわずかでほとんど認められない,トリゴンは無い〜小さい」である。この部分の違いのためにクサリゴケ科の属のチェックをする羽目になった(全 25)。図鑑には書いてないが非常に変異の大きい種のようだし,苔類ではこの程度の変化はありそうな気がする。
基物が樹幹というのも気になっていたが,これは岩上での採集記録が見付かった。湿った場所では,樹幹基部と転石とは同じようなものだろう。なお,腹片先端の「歯牙」は意外に見にくかった。腹片の縁が多少内曲してその陰になるためである。葉をバラバラに外してから数多く観察した方がよい。
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秋陽差す 草々にある 翳りかな 横井寛子
秋の日の 次第に低し 藪の中 高野素十
秋の日の ずんずと暮て 花芒 成美
腹片はシゲリゴケと一致します。
・16*8μ前後の巨大な油体が,1(-2)個ある。ブドウ房状(φ±4μ)だが,粒は不揃い。
・腹片先端の歯牙は,無かったり1細胞だったりあまり顕著ではないこともある。普通は3細胞で細く尖り明瞭。先端はゆるく凹むこともある。
・腹葉の切れ込みは深く真っ直ぐで左右に開くことは無い。
・油体の微粒がしばしば大きな眼点状になることがある。数日間乾燥しても油体がそのままだった!
首都大でも非常に少なく、5mm程度の枝が3本くらいだけでした。たまたま採集したので気づきました。他の場所でいくら探し回っても見つかりませんでした。