6月2日に『仮の同定で確信はない』と書いていたものである。市街地の土手という生育環境から,一時はツクシツボミゴケ J. truncata の可能性も考えていたが,何回かの採集の後やっと本種でよかろうという気になった。
不満だったのは,(1) 油体の眼点がそれほど著しくはない,(2) 葉が「扁平に展開する」とは言えない,(3) あった場所が陽の当たる乾き気味の土上,(4) 仮根がほとんど色づかない,の 4点である。もちろん,ありふれた種ではないということも不安要因であった。
今回の観察で「眼点(pupil)」をはっきり認める気になった。大きな眼点が半数以上の油体にあって,これはもう存在を否定できない。 ただ,位置が油体の中央ではなくズレていたり,端の方にくっついていたり,焦点をずらすと消えたり,2(3)個あるものが混じっていたり,実に多彩である。
葉の展開の仕方は平面状ではなく,立ち上がる感じで依然として気になる。ただし,茎の元から先まで,隙間なくぎっしり重なってつくのは本種の特徴に合っている。そして,葉を含めた茎の幅が中央部辺りで最も広く,そこから花被のつく先端に向かって段々狭くなって行く。これはあまり見ない形で本種に特有ではないかと思われる。普通雌株では,上下同じ幅か先の方が広くなるかのいずれかであろう。本品は例外なく先細りであった。
茎が太く径 0.6mm を越え多肉質でみずみずしいこと,細胞膜上に影のような弱い縦条が見える(striolate)ことは,今回の観察でも気付いた。また,葉に厚味があって硬い感じがしたのも強く印象に残る。
オオホウキゴケ J. infusca に比べ油体はより細い楕円体で尖り気味のものが多く,内部の微粒もより大きい(ブドウ房状というほどではないが)。油体の数は多いが隙間があって,細胞腔を暗く埋める(fill)感じもない。
何よりも同定に当たって気をつけるべき点は,眼点のあり方に変化が多く一律でないことであろう。よく目立つ葉と,ほとんど見えない葉とがある。記載にある usually with 1-2 pupils の "usually" 。
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鶏頭の 十四五本も ありぬべし 正岡子規
嫌ひつゝ あるを好めり 鶏頭花 小杉余子
鶏頭の 女盛りを 過ぎし色 小嶋萬棒