陽当たりのよい粘土質の崖面にぎっしり固まってあった。何かぶつぶつしたものがこびりついているような感じで,肉眼では1つずつが区別できないほど小さい。長さ数mmで葉を含めた茎の幅が 0.5mm強,おまけに柔らかくて砕けやすい。こういう小さなものの観察は,よほど気合いを入れてかからないと途中で息が切れそうになる。
明瞭な腹葉があるので Nardia,葉身細胞のトリゴンがないので N. assamica だろうとすぐに思った。しかも,油体が半数以下の細胞にしか無く,あっても 1個ずつ(微粒の集合)という著しい特徴が一致する。
しかし外見があまりに図版と違うので,しばらく頭を抱え込んでいた。念のためにと平凡社の図鑑の写真を見て,アッと氷解。雄株(雄花序)を見ていたのである。「モミ属の長いマツカサに似る」という非常にうまいキャプションがついている。『校庭のコケ』にも同様の写真が出ている。ということは,雄株のこの感じはよく目立つ特徴なのかも知れない。また,葉腋に黄色い多細胞の虫の卵のようなものが 1つずつ挟まっていたのだが,これは何だか分からない。
なお,「葉身細胞は厚壁,トリゴンがなく,表面にベルカがある。」とは必ずしも思わない方がよい。変異があるので,保育社の図鑑の記述の方が実態に合っている。事実今回の観察では,ベルカはごく弱く部分的にしか確認できなかった。
普通種のようであるが,今日初めて気がついた。苔類の採集は容易ではない。
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黄色にも 澄むといふこと 女郎花 坂本祥子
何恋ひて 痩するぞ小野の 女郎花 正岡子規
物いへば 声いかならん 女郎花 諸九尼
雄株なら,造精器じゃないのかな?
タイ類のことはよくわからないのですが・・・