採集目的は胞子体をつけたエダウロコゴケモドキ(蘚)だったのだが,その中にわずかに混生していた。時期がぴったり合ったのか,よく目立つ特異な花被がついていて調べてみざるを得なくなった。花被は保育社の図鑑のPLATE通りの印象で,白っぽく薄い緑,先端が薄いピンクに色づき勝ち,大きくて長い円筒形,あまり似たものがなさそうな感じである。
大属 Jungermannia の 4亜属の 1つで,花被が無褶の円筒形で上部が切形になることで特徴づけられ,含まれるのは本種 1種のみである。同定がすぐ済んでありがたい気もするが,孤立した種なので本種を知っても Jungermannia の分類にはあまり役立たない。
葉は縦に近く茎に付くので付着線(insertion)が長く,平らな感じで展開する。葉の上半部がゆるく反曲する感じがあり,葉先は多少窪む(retuse)ものも見られた。腐木を好むというのは本属としては変わっている。
平凡社版の Jungermanniaの検索表は神経の行き届いた非常によいものである。ただ,本種については多少分かりにくかった。「花被の先」が嘴状に尖るか尖らないかで分岐し,尖る方を更に「花被の先」が切頭か漸尖かで分けてある。一段目と二段目で「花被の先」という語の意味が異なる。初めのは「頂端の口部」のことで,あとのは「上部の形」という意味である。
口部は確かに分化するが,窪んでいたり穴があいていたりして,突出が明かでない場合もある。徒長した茎の先端につくという無性芽は見られなかったが,本種に間違いないと思う。児玉務氏の本にある『独特の花被ですぐわかる』という言葉に大いに元気づけられた。
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