来る日も来る日も 30度Cを越える日ばかりだったが,今度は大雨で道路が壊れあちこちが交通止め。いつまで待っても採集に行けず欲求不満気味である。移動手段は自転車か二足歩行,無理して出かけると現地に着くまでに熱中症になる。
自宅近くの古井戸の湿岩についていた。どうせハリガネゴケ科かチョウチンゴケ科の既知の種と思ったが,感じが少し違うような気がしてちょっとだけ持ち帰った。オオハリガネゴケ Bryum pseudtriquetrum らしいとルーペで見ていたが,中肋が葉先よりはるか下で終わることに気付いて座り直した。Bryum にそんなものはない(多分)!
葉がほぼ 3列にゆるくつくのだが,背側(斜上した上側)の 1列は極端に小さい葉がパラパラ並ぶのが著しい特徴。葉身細胞は巨大で幅が広く 80-120×±25μm。はっきり舷には見えないが,葉縁の 4列前後の細胞は細長く伸びていて,内部のものとはあきらかに形が異なる。このことから,ヘチマゴケ属 Pohlia でないことも分かる。
保育社の図鑑の,全体が赤紫を帯びたきれいな絵が気なっていたが,これは全く赤味を感じない。そのため確信を得るまでに時間が余計にかかった。始めて出会う種が典型的なものでなかった場合,必然的により精密なチェックが必要になる。これは必ずしも不運とは言えないかも知れない。
どこにでもあるような種とは思えないが人家のそばにあって驚いた。どんな環境条件があるのだろうか。
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この辺で 待つ約束や 草の花 今井つる女
山に遇ふ 人みな優し 草の花 沢 聰
人にやや 離れて生きて 草の花 菊地一雄
深い渓谷の中,水流の側の切り立った岩壁の岩隙に着いてました.Bryumにしたら葉のつき方が変だな!?と思ったのを憶えています.
関東の方では,比較的よく出現するそうですよ.こっち,西日本では,稀なんじゃないでしょうか.
いま乾いた状態を見たら,多少よれていますが開いたままで,巻き込む感じは全くありません。そして,ティッシュペーパーのように柔らかく薄質です。
葉の 2形性もさることながら,・大きな葉の左右非対称なようなそうでないような微妙な感じ,・太くて急速に細くなる中肋,・ごく低くて疎らな上部の小歯,・葉先の奇妙な突出,・大きくて 疎(lax)な葉身細胞等,顕微鏡下でもなかなか個性的です。
コメントをいただいて,相当水に近い場所を好むのではないかと思いました。分布については蘚苔類は情報が少なくて残念です。都道府県単位の植物誌は数多く出ているのですが,コケ類は省かれているのが普通です。