Thamnobryum は独学者泣かせの属である。オオトラノオゴケ T. subseriatum も確信が持てるまでには長い時間がかかった。そうに違いないと思っていても,決定的な証拠がない。検索表は,・中肋背面の歯の有無と・二次茎下部の柄の明瞭性を使っているが,かなり曖昧で判断に困る場合が出て来る。
本種は,空中湿度の高い場所(流れのごく近が多い)の岩上で時々見るもので,細く長い柄の上に枝を水平に広げる。枝の先は細く尖り,枝葉ははっきり小さく,T. subseriatum のように厚ぼったくはない。一目で分かるほど姿の異なるものである。
今回採集したものは,やや小さめで葉の先に丸味があってあまり尖ってないので,キツネノオゴケ T. alopecurum ではないかと思った。枝葉の中肋背面には鋭い歯が顕著で,茎葉についてもやや小さくはなるが,数個の歯がはっきりと認められる。平凡社の図鑑の「二次茎や枝の葉の中肋背面は平滑」に従うと,T. plicatulum ではないことになる。
Illustrated Moss Flora of Japan で,種々の形質を調べてもどうもはっきりしない。ただ,柄の部分が 4,5cm もあってあまりに明瞭,枝が扇状に一平面に展開するので,T. plicatulum でよいのではないかと思う。
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積乱雲 つねに淋しき ポプラあり 金子兜太
ゆづり葉に 一線の朱や 雲の峰 原石鼎
雲の峯 湧きて地中に 薯太る 成瀬櫻桃子