不完全な標本から種名を推理するのは,パズルを解いているような緊張感がある。数学パズルにはまっていた高校生の頃を思い出した。
ハイヒバゴケ Hypnum cupressiforme
他の標本に切れっ端が混じっていたので,なんだろうと考えてみた。第一感はクサゴケかカガミゴケであったが,検鏡すると翼部の様子が全然違う。これはどうも,キヌタゴケ属 Homomallium のようだと思った。だいぶ時間をかけて,ユガミキヌタゴケ H. incurvatum という種に決めかけていたが,葉の大きさが全然違うことに気付いて愕然。次に,キヌゴケ属 Pylaisia だろうかと,全種チェックしたがぴったりのものがない。困ってしまったのだが,「この葉形は確かに見たことがある」という既視感があってぐずぐず引きずっていたら,突然ハイヒバゴケを調べてみようという気になった。
結局ハイヒバゴケをよく知っていなかったということだ。 2度や 3度調べたからといって,分かった気になったら大間違いである。ただし,もう大丈夫。今回ハイヒバゴケの素顔(秘密)を見てしまった気がする。
ヘチマゴケ Pohlia nutans
山の頂上(550m)から,緑のゴミのような,腐植土の塊のようなものをつかんで帰った。茎の高さが 5mm,腐植土に見えたのは老成した,あるいは枯死した個体達であった。これも「確か見たことがある」という気がするのだが,どの辺なのか見当がつかない。保育社,平凡社両図鑑の図を全部めくってみても分からない。仕方ないので疲れて休憩していたら,突然「これはヘチマゴケ属の葉だ!」という確信が降ってきた。
「細い披針形の葉で,基部がゆるやかに狭まり,相称形で葉縁は反曲しない」,これが一番印象に残った点。朔無しでヘチマゴケ属を同定するのは(未知種を)無茶であるが,朔ができるのを待っていたら,何時になるか分かったものではない。
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どくだみの 香にたつ土の 薄暑かな 西島麦南
かたばみの ピンクの花の 薄暑かな 瀧 春一
柿の葉の てらてら光る 薄暑かな 青木月斗
「季語さがし」の方が,論理が使えない分はるかに高級な気がします。ひらめくのを待つしかないという。
後から♪のほうが圧倒的に多いです。
季語が先は一番苦手分野かも♪