水中というほどではないが,水量が増えると水が流れ下るような,渓流内の岩盤についていた。採集の時よく通っているのだが,1年の内 1/4 くらいの期間は水がある気がする。 カラカラに乾いたり速い流れに洗われたりする日々,かなり厳しく競争相手の少なそうな環境である。ランヨウハリガネゴケ Bryum cyclophyllum に初めて出会ったのもここである。ミヤマホウオウゴケ Fissidens perdecrrens もこういうところが好きだ。
葉の形や付き方がヒロハツヤゴケ Entodon challengeri によく似ていて,最初はそれかフトサナダゴケ Entodon luridus のいずれかであろうと思った。しかし,E. challengeri が水をかぶるというのはどうなんだろう・・・,E.luridus は葉の付き方が扁平ではないというし・・・,と思いあぐねていた。予想外に早く解決ができたのは掲示板「このコケな〜に?」のお蔭である。
今となってみれば,Entodon とは翼部の様子が全く異なっていることがよく分かる。Ectropothecium の方は翼部や葉基部の分化は無しと思ってよい。そして,葉の付け根の外側(茎の上)に大きな透明細胞が 1個できるという著しい特徴がある。ただ,保育社の図鑑の図は極端でこんなに巨大には見えなかった。観察した限りでは長さの最大が 45μm,幅は最大 25μmであった。隣接する 2番目 3番目の細胞も結構大きいが,幅の広さの違いは明瞭である。
この取って付けたような大きな細胞は,葉を剥がしてもなかなか一緒にくっついては来ない。葉をつけたままで(付け根が見えるように適当に間引き)カバーグラスをかけ,直接見た方がよく分かる。
変わった和名であるが,ニブハが「鈍葉」ということなら感じが出てイイと思う。葉先が円頭に近くしかも葉縁が弱く内曲しているので,葉の形が丸っこく柔らかい曲線になって独特の印象を与える。E. challengeri と並べてみると,微妙ではあるがはっきりと違う。そして,乾燥すると姿が変化して別種であることが明らかになる。
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いとけなく 植田となりて なびきをり 橋本多佳子
卯の花の 敷きこぼれたる 植田かな 佐藤眉峰
植田たのし 自転車映り 人映り 村松紅花
ニブハ「鈍葉」タケナガ「タケナガさんという人名(多分コケ学者だったような・・)」らしいです。
ハイゴケ屋先生から直接聞きました。