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丹後の日記

エゾハイゴケ Hypnum lindbergii編集する
2007年05月15日23:02全体に公開
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スゲ類につかまってコケを探すのを休んでいた。いずれもゆっくりやればよいのだが,スゲは果実の熟する今の時期(5・6月)を逃すと同定ができなくなる。「コケに比べれば簡単です」などと広言していたのだが,そうでもない部分(節 Section)もあることを思い知った。

今日もコケは全く期待していなかったのだが,弁当を食べていて偶然気付いた。全くどこに何があるか分かったものではない。目の前の大岩(渓流内)に,鮮やかなグリーンに光る,尖ったような茎が,ぎっしり立ち並んでいる。絨毯を広げたように一面で,昼寝にいいなと思っていた。一瞬その気になったが,近寄っての第 1感は「未知のものだ!」であった。そして,採集しながらの第 2感は「アサイトゴケ Pseudoleskeopsis japonica だろう?」と変わった。場所と朔の形から(自分の否定癖も+して)の連想だが,細部をよく覚えてないことがバレてしまった。

帰って顕微鏡で“翼部(枝葉)”を見てアッとびっくり。大きな透明細胞が沢山あって異常なほどに目立つ。しかも,透明部に急に変化するので翼部の境界線は明瞭この上もない。しばらく Hypnum だとは信じられなかった。

葉も今までに知っている Hypnum とは全然感じが違い,柔らかくふにゃふにゃしていて何だかだらしがない。大きな縦皺が見え,葉の先は尖らず鈍で,鎌形にもならない。“手招き状”に一方向にゆるくカーブするところがかろうじて Hypnum を思わせる。とにかく,何かと特徴の多い種で大変ありがたい。長く印象に残りそうである。

<追記>
“朔”(少量)は下部に潜り込んだ P. japonica のものであった。この朔を見ていたことになる。少し怪しいとは思っていた・・・。

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 新緑や 風にも彩(いろ)の あるごとし    中野俊子
 新緑に 命かがやく 日なりけり        稲畑汀子
 新緑や 足なげ出して 塩むすび      木元静子

コメント

  • ハイゴケ屋

    ハイゴケ屋2007年05月16日 12:33 削除
    確かに,エゾハイゴケは,Hypnumとしては,変な種です.
    Hypnum属のタイプはH. cupressiformeですが,翼細胞の形態は全く異なっています.

    近年(1990年),北欧のHedenasという研究者が,Calliergonellaに入れるという考え方を提唱されていますが,そうすると,Calliergonellaをどこに置くのか?などという問題と合わせて,まだ,さて,どうしたらいいのか,定まっていません.

    それにしても,隠岐には,エゾハイゴケもあるんですね.これは寒冷地によく出現する種で,岡山県では,県北脊梁山脈の谷,標高500mぐらいから出てきます.エゾハイゴケがでるなら,水にひたるような岩上に,H. dieckiiがあるかもしれませんね.これも翼細胞が特徴的な種です.
  • プロジェクトK

    プロジェクトK2007年05月16日 17:36 削除
    近畿地方、紀伊半島では分布記録を見ても、特にエゾハイゴケが寒冷地に出現する傾向が感じられません。

    いわゆる平たく言うところの「良いところ」には普通に見られます。
    暖地にも普通で、南限では亜熱帯性の蘚苔類の豊富なことで知られる、三重県尾鷲市賀田の海沿いの谷で標高は10mほどのところ。
    まだまだ磯の香りが届くような谷です。

    ところ変わればですね。
  • ハイゴケ屋

    ハイゴケ屋2007年05月16日 19:28 削除
    紀伊半島では,そんなですか・・・ほっほー,ありゃりゃ!です.今度,そちらにお邪魔した時には,気をつけてみます.
  • 丹後

    丹後2007年05月16日 22:37 削除
    》 ハイゴケ屋 さん

    Calliergonella の科ですか。人間は自然界に線を引いて認識しますが,実際には線はないのかも知れません(あるいはぼやけている)。

    H. dieckii,気をつけることにします。普通種をある程度知ったら段々宝探しのようになってきました。一般の植物もそうでしたが,最初の出会いというのは鮮明で何時までも記憶に残ります。なんか,人の場合でも,第一印象がすべてという気もしますが。ちょっとだけで,一点にしかないものを見付けるのも嬉しいですが,今回のように巨大な群落も豪華でいいものです。

    》 プロジェクトK1 さん

    意外と低地,そして南の方まで「有る」ことが分かりました。しかし,有無ではなく量の多少で考えると,やはり北のものであるとは言えないでしょうか。隠岐では標高 70mの場所でしたが,とても普通種とは思えません。

    >ところ変わればですね。
    確かに。狭い範囲で言えば,一つの沢には沢山有って,似たような近くの沢には全く無い,という例を時々経験します。私には分からないコケにとっての事情があるんでしょうが。

    安藤先生の解説に,「特に山地の池沼や渓流辺によく見られるが,多雪の日本海側では人家の庭の土上にもよく生育している。・・・東北地方の低地ではハイゴケ(H. plumaeforme)に次いで普通に見られる。」という部分がありました。
  • 丹後

    丹後2007年05月17日 05:45 削除
    隠岐で見ているものを頻度順に並べてみました(6〜8 は 1,2ヶ所)。

    極普: 1. ハイゴケ H.plumaeforme, 2. ヒメハイゴケ H.oldhamii,
    稍普: 3. オオベニハイゴケ H.sakuraii, 4. ヒラハイゴケ H.erectiusculum,
    稍稀: 5. ハイヒバゴケ H.cupressiforme,
    稀:  6. イトハイゴケ H.tristo-viride,
    極稀: 7. クチキハイゴケ H.densirameum, 8. エゾハイゴケ H.lindbergii
  • ハイゴケ屋

    ハイゴケ屋2007年05月17日 09:36 削除
    「多雪の日本海側や東北地方の低地」は確かにそうだと思いますが,紀伊半島の低地は・・・どうも釈然としません.
    プロジェクトK1号 さん,何かの機会に,標本を見せてくれません?
  • プロジェクトK

    プロジェクトK2007年05月17日 17:54 削除
    ハイゴケ屋さんの件了解です。
    標本については大体、大阪市立自然史博物館に入れていますので、機会があればのぞいていただければなぁと思います。

    ご一緒したところでは、尾鷲市矢ノ川で中島徳一郎先生の標本が記録されていますね。

    そもそも、紀伊半島は、南方系とか北方系とかのすみわけがいい加減で訳が分からない地域です。

    先述、Hypnum cupressiforme などは本州最南端潮岬を始め、暖地でも普通な顔をして生育しています。

    コケではこのようなミスマッチがきちんと調べられていませんが、結構あるようです。H. cupressiformeについては安藤先生が述べられていましたね。

    高等植物ではかなり変で、有名なのは海岸林を形成するウバメガシ林が内陸山地に豊富に見られることですね。

    その他、最近では海浜植物のカクレミノが台高山脈の尾根沿いで見つかったり、同じく暖地生海浜植物のイブキ(ビャクシン)の原生林(胸高周囲5mを越えるような大木がごろごろしていて眼を疑いました!)が大峯山脈山頂付近や川上村の石灰岩峰上で見つかったりしています。

    動物の方でも、エゾネズミが暖帯林に北海道と隔離分布していたり・・・

    説明しにくいフロラ・ファウナのパターンがあります。

    そもそも熊楠がBuxbaumia minakatae が見つけた将軍川上流なども、北方系とか南方系とかで判断できないような種が入り交じって普通に生育している変な場所であったりしますよ。
  • ハイゴケ屋

    ハイゴケ屋2007年05月17日 21:04 削除
    どっひゃー,ありゃりゃ!です.
  • 丹後

    丹後2007年05月18日 22:26 削除
    <北方系と南方系>

    隠岐ことしか知らず,分布の知識もないのですが,自分なりにちょっと考えてみました。

    隠岐も両者が共存していて不思議だとよく言われています。何故そうなるのかはよく分かりません。ただ,隠岐の位置が照葉林(暖帯)がそろそろ夏緑林(温帯)に移行する緯度ですので,ある程度両方のものが混じるのは当然に思えます。東北や九州でそうなれば特別な理由があるでしょうが。紀伊半島も確かに変ですね。

    北方系・南方系を決める最大の要因は気温でしょうが,「局地的な」分布については,それ以外の環境要素「水分(風・日射・地形)・地質・地史」なども大きく影響しているに違いありません。隠岐でもブナ帯のものが波打ち際にあったりする例がかなりあります。海洋性気候で夏があまり暑くないという理由もあるかも知れません。ある種を調べてみたらミズナラ帯から点々と続いて下へ降りて来ていました。暖地であっても高い山が近くにあれば,寒冷地センターが控えているようなもので,枯れたらまた送り出すというわけです。

    逆に,海岸植物が山地に出て来る例も時々見られます。海が無いだけで他の条件がよく似ているためだと思われます。海流で種子を運ぶ種や塩分の好きな種(あるのかな?)は無理でしょうが。

    隔離分布も非常に多く,いつも不思議に思います。例えば,隠岐と長野(新潟・富山),あるいは隠岐と鬱陵島,・・・。大多数が過去に広く分布していたものの遺存のようです。環境要因も含めて化石化しているような感じです。ランやシダ,コケについては遺存ではない新しい分布も当然考えられます。

    エゾハイゴケは温度にかなり鈍感(変化に強い)なのかも知れません。あるいはもっと影響の大きい環境条件(水?)があるのか。偶然・たまたま,とはあまり考えたくありません。数百年・数千年は続いてきたのでしょうから。
  • ハイゴケ屋

    ハイゴケ屋2007年05月19日 07:51 削除
    丹後さん,K1号さん,

     面白い情報をありがとうございます.
     
     「海洋性気候で夏があまり暑くない」というのは,私にとって,今,すごく気になる話です.コケの分布,生育条件というのは,どうも,その辺がカギになるような気がしてます.

丹後

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