渓流の近くにはとにかくコケが多いが,水に“浸かった”状態で生えているものはそんなに多くはない。水のごく近くでも,せいぜい時には水をかぶる,あるいは多少湿っている,という程度の場合が普通である。
常に濡れていても平気なものと言えば,オオバチョウチンゴケ・ナガサキホウオウゴケ・ホソバミズゼニゴケ等を思い付く。しかし,本種は環境を厳しく選ぶのか,生育する場所をまだ一ヶ所しか見付けていない。
渓流内の岩が平らに広がった,陽当りのよい岸辺で,部分的に浅く水がある程度。このコケは磯の臭いがするのだが,確かに波の静かな入江のような場所ではある。
葉はやや扁平に付いて腹側に多少曲る。平たい紐状になり,背側の葉が膨らんで見えるのが印象に残る。暗緑色であるが乾き気味の場所では黄色味を帯びる。
細胞が大きいのがこの属の分りやすい特徴で,長さは 70μm前後,幅は 20μmに達する。葉の形は,楕円状卵形〜広卵形で,葉先は広く尖るが多少突出することが多い。付く場所によって葉の形が違い,腹側のは円形に近く,横につくものは深く折畳まれて非相称,先が鎌形に曲る。
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おほかたは 複雑骨折 枯蓮(はちす) 藤井 豊
こんなにも 枯れうるものか 枯蓮 太田悦子
枯蓮を 見よとベンチの 置かれたる 波羅綾子