アオギヌゴケ属 Brachythecium は最も恐ろしい属の一つである。確実に同定できたのは,アオギヌゴケ B. populeum ,タニゴケ B. rivulare , ハネヒツジゴケ B. plumosum ,の 3 種だけ。ナガヒツジゴケ B. buchananii とした標本もあるがあまり自信はない。
今回のは, 枝(2-3cm)が丸い棒のようで(葉が覆瓦状),それがぎっしり集まって“直立”している。立ち上がった枝の途中から盛んに胞子体が出,枝の先端には短い 2 次分枝がほんの申し訳程度にできる。こんな姿のものは今まで見たことがない。一瞬イヌマゴケ目かと思った。
水田近くの石垣(日陰)についていて,「またハネヒツジゴケの変異型か」と思って採集した。しかし,葉身細胞の幅が 7-8μm あってハネヒツジゴケの 3-5μm とははっきり違う。茎葉に「深い縦じわ」が無いので,ナガヒツジゴケでもない。
近縁種にクロイシヒツジゴケ B. kuroishicum があって本種との差が微妙であるが,基本的に北のものなので隠岐にはなさそうだ。中肋が長く,葉長の 2/3 に達すること,翼部の区画がないことも(基部全体で同一),ヒモヒツジゴケを示しているように思える。
著者によって細胞の大きさや葉形の図が異なるのは困ったものだが,変異が大きい種のようなので納得することにする。それにしてもコケというのは,何でこんなに分かりにくいんだろう。本来そういうものなのか・・・。
---------------------------------
黄落の 悲しみに似し 明るさよ 丹羽愛子
短気なる 木より黄落 始めけり 渡辺 晧
生臭く ゐて黄落を 想ひをり 土居登喜子
アオギヌゴケ属から進めないものが多く、結局属spで片付けてしまうことが多いです。アオギヌゴケ、ナガヒツジゴケ、ハネヒツジゴケとあとアラハヒツジゴケかな、なんとかなりそうなのは。でも初めのころやたらと採集しているものが、ほとんどこれ!シノブゴケ、ハイゴケも属どまりが多くて、難敵です。
コケ探検隊でなんとか初心者が入りやすいコケ図鑑を!と思ったのですが、難しいですね。
特徴が、これだ!と簡潔に分けにくいのでしょうか。
どうも他の植物の分類基準と違いすぎて・・・。
アオギヌゴケ・シノブゴケ・ハイゴケの 3 属,初心者の前にそそり立つ高い山のようです。種数が多いうえに身近な種が含まれているので,よけいそういう感じを与えるのでしょう。
しかし考えてみたら,種数こそそう多くはないものの,わけの分からない属は結構ありました。キヌゴケ属・ススキゴケ属・カガミゴケ属・オオトラノオゴケ属・・・・。
>なんとか初心者が入りやすいコケ図鑑を!
是非お願いしたいものです。ただ,誰にでも読めるような本は内容のないものになりがちです。読みやすく,やさしくというようなことではなく,難しくても曖昧さのないものがいいです。種数を制限しても(例えば極普通種 50),取り上げた種については,独力で確実に名前が分かるような記述です。デジタル技術が進んで写真も楽に使えますので実現しやすくなってきました。 1 種につき写真 10 枚(笑)。うち生態写真は 2 枚で後は「部分」写真や顕微鏡写真。
コマノヒツジゴケB.coreanumもなんとかなるんでは?
と思います。
と言うより、それしか種名まで書いた事がないです(汗)。
コケ図鑑、
> 1 種につき写真 10 枚
はいいですね。(^-^)
あと胞子体が成熟する時期も載せて欲しいです。
もっと色々なタイプのコケ図鑑が出来るといいですね。
でもコケは環境によって大きく姿を変えるので
> 曖昧さのないもの
は出来ないような気がします。
種の定義や分類を見直した途端に
機械的に同定できるようになる事もあるそうですが。
>胞子体が成熟する時期
期間の幅もあるし環境によってもずれますが,あると便利ですね。特に採集や観察のためには。
>> 曖昧さのないもの
>は出来ないような気がします。
変異があっても,変異の幅が示されていれば「曖昧」とは思いません。
ちょっと理屈になりますが,曖昧さが残るということは,どちらとも決定できない個体が出て来るということで,種の範囲の一部がそこで重なっていることになります。それは別「種」ではなくて,「母種」とその「変種」との関係です。そのことさえ明記されていれば「曖昧」だとは思いません。
曖昧さを含んだ「種」の概念(定義)というのは原理的にあり得ないわけで,やはり分類が未完成・未熟であるということになると思います。もちろん,そこの部分では曖昧さが残るわけですが,そのことをちゃんと書いて欲しいのです(どう曖昧かを)。素人が曖昧さはないと勘違いして,不毛な苦労をしないために。
いやぁ〜,ちょっと無理な希望,という気がしてきました。
「コケは茎葉の横断面さえ切れるようになれば
誰でも分かります。」
となる日が来るのを祈ります。(′大`)
倉敷自然史博物館でも「岡山のコケ図鑑」ファイルを作りました。見分けがつきやすい代表的なコケばかりですが、生態写真と1cmスケールのついたアップの写真、本物のコケパウチをA4一枚のファイルにしたものです。県南、吉備高原、県北とわけています。少しずつ増やしていって、まとまってきたら本になればと思っています。写真も確かに見分けるポイントのアップ写真が数枚あったほうがわかりやすいですね。
今のコケ分類は、素人からみて、それぞれの専門分野の横の連携が薄いような気がします。今DNA分析が進んでいるので、それとあわせてすっきりと再編されるような気はしますが、まだ時間は掛かりそうですね。