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丹後の日記

イボテングサゴケ Riccardia tamariscina編集する
2010年11月12日12:49全体に公開
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2年前の日記では「キテングサゴケ Riccardia flavovirens」の表題になっている(本文中で本種に訂正)。
 http://mixi.jp/view_diary.pl?id=876730487&owner_id=2651499
恐怖のRiccardia,2例目の体験が本種だったことに驚く。今回は4地点目の採集になるが(海辺で標高わずか3m),そこに書いたように「信頼度100%」にしておきたい。何しろ古木論文(T. Furuki 1991)の引用標本産地が,広島・高知・宮崎・鹿児島県,屋久島・西表島・小笠原諸島(父島)という代物である。

(1) 他に例のないユニークな特徴は,葉状体の表皮細胞に「ホコリをなすりつけたような」ベルカが一面に見られることである(×400)。見事なベルカが見えればそれだけで安心してよい。

ベルカは通常一目瞭然であるが,やや弱い部分や全くない枝も混じることがあるので,1個体1ヶ所の観察だけでは十分ではない。更に,近縁のクシノハスジゴケR. multifida ssp. decrescensにも時にベルカが現れるような“気がする”。この点が今まで鈍痛のように残っていた。クシノハスジゴケとの区別をスッキリさせることにする。

(2) 確かに翼部は認められるが,クシノハスジゴケほど「広く,薄く,透明で,縁が凸凹」ではない。この翼部の特徴によって一発で同定できるのがクシノハスジゴケ。その独特な感じは現物を「一度見れば分かる」ので,こちらを捜すことも大いに役立つ。「ありそうな場所を探すと必ずある」というほどの普通種なので強く推奨。ただ全周がそうなっているとは限らないが,その様な部分が一ヶ所でもあればまず間違いない。

(3) 主軸部の表皮細胞に油体がはっきり確認できる。比率は1/3ということになっているが,かなりの多寡があるので,これもあちこち見回した方がよい。一方クシノハスジゴケは「ほとんどない(ごく稀)」。

(4) 主軸部表皮細胞の大きさが小さく,長さ35-60μm(少数の極端値は捨てる)で“代表値”が50μm弱。代表値は単に目で見た判断で,最頻値・中央値・平均値の意味である。クシノハスジゴケの方ははっきり大きく,50-120μm,代表値60μm。つまり「ほとんどの細胞が50μ以下か VS. ほとんどの細胞が50μmを遙かに超えているか」の差である。一目で気付くほど大きな差ではないが,確実で迷う余地がないと思う。別の言い方をする。本種では60μmを超える細胞はまずないが,クシノハスジゴケはごく普通に60μmを超え100μmに達するものも含まれる。

このところ普通の植物の調査・同定が忙しくてコケを休んでいる。隠岐島(あるいは島根県)新産の種が次々に見付かった。地元の専門家が誤って認識していたもの,過去の図鑑が落としていたもの(シノニムに),あるいは厄介な雑種の同定なども含まれている。その作業を通じて感じたことは,自分の「同定力」が著しく進歩していることだった。精密・細心さはもとより,集中の持続力が全然違う。人一倍疑り深かったはずなのに「結果については,誰にも何も言わせません」というほどになって来た。コケで苦しんだのは無駄ではなかった。コケに感謝!


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 山辣韮 くれなゐに咲き 山晴るゝ       飴山 實
 山辣韮の花よ そうよと 声の過ぐ       正木ゆう子
 もの云はず 少女は山辣韮を手に       秋篠光広


コメント

  • 退会したユーザー

    退会したユーザー2010年11月12日 16:58 削除
    その調査はどういった経緯で行っているのですか。
  • 丹後

    丹後2010年11月12日 18:28 削除
    「経緯」というほどのものはありません。一般植物の調査は昔から行っています。ここ数年はコケが“主”だったというだけです。

    夏以降のろくでもない天気のせいで遠出ができず,近間を少し丁寧に見ることになりました。そしたら見落としていたものが見付かって,そこから芋づる式に広がりました。

    いい加減な同定で放置してあった種に,「そろそろ結論を出しておかねば」と考えたことも一つの原因です。30年目にして最終結論が出たものも2種ありました。

    昔の仲間と連絡をとるようになって,色々新しい情報を得たことも“高等植物”優先の原因になりました。もちろん,コケが終わったと思っているわけではありません。

  • 退会したユーザー

    退会したユーザー2010年11月12日 21:20 削除
    「昔の仲間」という事ですが、かなり若い頃から観察していたのですね。私の大学ではなかなか野外で植物を同定することに興味を持つ人がいません。私には、興味を持たせる力が無いようですが仕方ないと思い一人でやってます。

丹後

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