いくら顕微鏡下で同定できても,野外で名前が言えないようでは「本当に分かった,自分のものにした」という気にはなれない。これは本当。今回のも現地で名前が出て来ないので,ちょっとだけ持って帰った。何故か知っているものだと思い標本を作る気はなかったが,予想はウロコゴケ科あるいはツキヌキゴケ科だったので的外れ。
葉は,・ほとんど縦に付き,・水平に広く開出,・薄質で硬くぺらぺらした感じで,・茎葉体は扁平に見える。ちっともツボミゴケ属らしくない。本種を初めて採集した時に日記を書いているが,今回新たに気付いたことがあったので,更に追加しておきたい。当時の記録を読んでみるとなかなかよく観察しているが,すっかり忘れてしまっていた。同定の簡単な種ではよくそういうことが起こる。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=572744785&owner_id=2651499
今回のは花被がついてないので,同定に大分時間がかかった。つまり葉の形や付き方をジロジロ何度も見ることになった。それらしいものが見つからなくて行き詰まり,珍しく自家用の「科の検索表」を使った。(1) 腹葉がなくて,(2) 葉が瓦状に付き,(3) 葉の背縁基部がほとんど下延しない,そんなものはヤバネゴケ科とツボミゴケ科しかない。葉の先端が円頭なのでヤバネゴケ科ではあり得ない。そこで,腹葉がないことを慎重に確かめて Jungermannia なんだとは思ったが,種名が出て来ない。
葉身細胞を検鏡してみたらオオホウキゴケ J. infusca に非常によく似ている。オオホウキゴケをよほどよく知っていないと,間違えてしまいそうだ。しかし,油体の詰まり方やトリゴンの大きさが微妙に違う,何よりも葉の質感と展開の仕方に違和がある。仮根が全く色づかないのも気になる。
ブレイクスルーは,茎の先端についた粉状の無性芽を見つけたことでやって来た。調べて見たら Jungermannia 中無性芽をつける種は,本種・アカツボミゴケ J. rubripunctata ・J. leiantha (欧米産),の3つしかない。J. leiantha (かつて J. lanceolata)は,本種とそっくりだが,雌雄同株なのと無性芽を極めて稀にしかつけない点で異なるという。“Jungermannia で無性芽”という型破りな特徴で同定ができたことになる。今後は,花被・無性芽両方がなくても同定できる自信がある。といっても,この種は花被・無性芽ともよく付けるのだが。
隠岐では今まで3ヶ所で採集したが,基物は腐木:2 と岩上:1 で,場所は高地(600m alt.)或いは深山の渓谷。いずれも極めて空中湿度の高い場所だった(隠岐ではトップクラス)。しかし今回は,無人島の明るい林内(60m alt.)で直ぐ下に海が見える場所,しかも“土の上”に直接生えていた。どの文献も「主として腐木,時に岩上」のはずだが・・・と平凡社の図鑑を読み直してびっくり。「低地〜高地の倒木上,稀に土上に生育。」となっているではないか。図鑑はよく読むべきものである。
学名は二転三転。1つの種にも認識の歴史があるものだ。
J. lanceolata L. > J. lanceolata ssp. stephanii Amak. (1960) > J. cylindrica (Steph.) Hatt. > J. amakawana Grolle
> J.subulata A.Evans. (1892)
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夏鶯 さうかさうかと 聞いて遣(や)る 飯島晴子
老鶯の 力まず力 抜かぬ声 檜 紀代
老鶯の 緑一色 しか 知らず 大牧 広
無人島の植物相はなかなか面白いのですが(例えば自然草原),コケには全く期待していませんでした。山というほどものはなく,沢らしい沢もなく,おまけに風当たりが強い。取り柄は人為の干渉が全くないということでしょうか。本種も意外でしたが,ナゼゴケの時は自分の頭の正気を疑いました。
> 取り柄は人為の干渉が全くないということでしょうか。
無人島ならずとも「人為の干渉が全くない」場所は,そう珍しくないことに気付いた。少し山に入ればそういう場所はまだ残っている(規模さえ問題にしなければ)。肝心なのは“低地で”ということだ。“有人島”の低地は必ず何か人間がかまっている。居住,農耕,植林等。確かに低地で手つかずの土地は珍しい。
ナゼゴケの辺りをもっと調査するといろいろと変な(?)ものが出てくるかもしれません。
それから、8月の蘚苔類学会の山口大会は参加されますか。
山口大会は参加しません。というか,学会や観察会への参加を考えたことがありません。元来人の集まるところは苦手というせいもあるんですが,「専門が違う」と思っています。出不精もあります。大山(鳥取県)などすぐ行けるのですが,コケ目的で登ったことはありません。
私はコケ茶会に二度くらい参加しましたが、コケについてよく知っているはずの人同士でも、案外話が弾まないものですね。無理に会話を繋ごうとすれば不快感を与える事もあります。
それどころか、形態を専門にする人さえ少ないようです。私が南大沢のコケについて話しても「僕、形態は分かんないから〜」とウケは悪いです。そこで会話はストップしてしまいます。
飲み会は研究者の人生の話ばかりで若僧の学生である私には理解出来ない事ばかり。
私が「平成生まれ」であるだけで「お前は平成生まれかー。」と笑顔で別者扱い。
コケ茶会はフレンドリーであることが売りなはずなのですが、私には、1を言えば10分かる人達同士で仲良くしてるだけに見えます。
自分の専門以外のことはあまり考えたことがないのかも。そうではない人も,いるにはいるようですが。
> 案外話が弾まないもの
お互い努力すべきものでしょうね。参加者全員に責任がある。
> 僕、形態は分かんないから〜
「異分野の人とは話ができない」人が増えてますかね。子供・老人・おばさん等も異分野の人ですが。
> 若僧の学生である私には理解出来ない
共感できなくても「聞く」ことはできます。知らないコケを「見る」ように。
> 「お前は平成生まれかー」
ご自分の「魅力」の問題も考えてみて下さい。
> 1を言えば10分かる人達同士で仲良くしてるだけ
そうなり勝ちなんですが後で空しくなります。場の流れを変えるよう努力して下さい。