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丹後の日記

ナシゴケ Leptobryum pyriforme編集する
2010年05月04日22:52全体に公開
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新しい林道の切取崖,黒い腐植土の吹き付け面に点々とあった。顕花植物の種子(タネ)が芽を出したように見える。高く立ち上がって密に叢生,細く弱々しい葉をまばらにつけている。属名のLepto-(薄い・細い・柔らかい)は成る程と思う。しかしBryum(ハリガネゴケ属)とは全く感じが違う。結果を知ってからはヘチマゴケ属(Pohlia)には似ているかなと思えて来た。最初はススキゴケ属(Dicranella)が浮かんだ。

コケに間違いないとは思ったが,「未だ幼いし胞子体もないので無理」と2週間ほど放ってあった。今夜少し時間(コケ用の)ができたので,実体顕微鏡に向かったら胞子体があることに気付いた(4個)。最初の1個はヒョウタンゴケ(Funaria hygrometrica)で,さもありなんという気がした。ヒョウタンゴケの出そうな環境である。しかし,首の長い見慣れない形の〔朔〕が出て来たので座り直した。慎重にほぐしてこのコケのものであることが確認できた。幼生という判断も見かけに捕らわれての間違いだった。

胞子体のついている茎とついてない茎では,姿が全く異なる。よくある図は胞子体のついているもので(例えば保育社の図鑑),茎の上部に長い葉が房のように集まってつく(coma)。胞子体のつかない方は以下の写真が役立つ。
http://www.ne.jp/asahi/koke/file/nashigoke.htm
乾いたらぴったりこのようになる(多少光沢有り)。「コケの写真鑑」は時々参考にさせてもらっているが,今回くらい有り難く感じたことはない。見たとたんにコレだ!という確信が来た。

本種の名前だけは知っていたが,知識は保育社の図鑑の絵だけ。その影響で「中肋がすごい」というイメージだった。ところが実物を見ると,中肋はあるんだかないんだかという感じである。確かに幅は広いが薄くて境界も明瞭ではない。しかし,細く柔らかい葉とそのまばらな付き方で,今後は肉眼で十分同定できるだろう。もちろん奇妙な形の〔朔〕があれば文句なし。

世界に広く分布するコスモポリタンで,人里のコケのようである。植木鉢によく生えるという。しかし,各地のリストを見るとあまり量が多いとは言えない。むしろ珍しい方ではないかと思われる。


かつての職場の部下に頼まれたきつい仕事が終って(データベースアプリの作成),明日からはコケに戻ることが出来る。しかし,コケはただ自分一人のためのものである。喜んでくれる人はいない。何となくむなしいのはそのせいだったか。以下は内田樹さんの著書から。

・・・働く人が、誰に、何を、「贈り物」として差し出すのか。それを彼に代わって決めることのできる人はどこにもいない。贈り物とはそういうものである。誰にも決められないことを自分が決める。その代替不能性が「労働する人間」の主体性を基礎づけている。
その「贈り物」に対しては(ときどき)「ありがとう」という感謝の言葉が返ってくる。それを私たちは「あなたには存在する意味がある」という、他者からの承認の言葉に読み替える。実はそれを求めて、私たちは労働しているのである。・・・


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 かたかごの 花びらに風 触れにけり      清崎敏郎
 かたくりや 花の盛りを 俯(うつむ)きて    井上あや子
 片栗の 花 むらさきを 秘め通す         井沢正江



コメント

  • プロジェクトK

    プロジェクトK2010年05月04日 23:18 削除
    これひょっとして外来種かもしれませんね。
    私も、博物館の標本同定会に持ち込まれたものを見たのみです。
    それも、ちょうど都市公園の花壇という外来種にありがちなパターンで。。。。
  • 退会したユーザー

    退会したユーザー2010年05月04日 23:26 削除
    ナシゴケは、東京都だと温室に出るような種類です。「植木鉢ならどこでもひょこひょこ出る」様な種類ではありません。小石川植物園の温室にたくさん生えてますが、それ以外では全く見かけません。

    隠岐のコケ情報を何らかの形で公開すると、コケをやる人にとって役立つと思います。特に、同定が難しい種類についてのポイント等を中心に解説したウェブサイト等がもっとあればいいかなと思います。浅井さんのページだけではちょっときついですし、「コケ写真館」の写真はほとんど役立たないです。
  • 退会したユーザー

    退会したユーザー2010年05月04日 23:27 削除
    あ、ちなみに小石川植物園は外来種の巣窟なので、木村先生の仰る通り外来種かもしれません。
  • 丹後

    丹後2010年05月05日 20:55 削除
    》 プロジェクトK さん

    私も最初見た時「外来種か?」と思いました。いわゆる「種子吹き付け工法」という奴ですが,未だ真新しい感じで他の草も生えていません。

    中国の図鑑に,Stems at times with rhizoidal gammae. とあったので,調べたら透明な5個ほどの細胞からなる棒のようなものが仮根に一杯ついていました。こんなのは見たことがないので,これが無性芽なのかどうかは分かりません。

    吹きつけ面からは日本の図鑑には載ってない中国産の植物が時々生えてきます。この種も中国産の可能性はありそうです。あまり見られないということは,繁殖力が弱く又は環境が合わず直ぐ消えてしまうのでしょうか。

    何でも載っているはずの『三重県の蘚類(孫福正 1979)』に出てないので変に思っていたのですが,帰化種ということなら納得できます。
  • 丹後

    丹後2010年05月05日 21:13 削除
    》 山雀 さん

    素人向けのコケの解説記事は考えていますが,今は「それより自分の採集・観察が先だろう」といったところです。顕微鏡写真も撮りたいのですが,よく知らない種だと何が必要な写真で何が不要かの判断ができません。数は多ければよいというものでもありません。どこがポイントなのか焦点がぼけてしまいます。標準型(典型・代表値)と変異型の区別も必要になってきます。
  • 丹後

    丹後2010年05月05日 22:41 削除
    以下【追加】です。

    更に仮根の周りを見ていたら,ごく少数だが無性芽らしきものが見つかった。茶褐色で多細胞の柄付き。A.J.E. Smith の図鑑に図がある。著者の得意分野なのかこの本はやたら無性芽に詳しい。

    先ほどの透明な細胞列でできたものは,このコケとは無関係のものかもしれない。

    そして困ったことに,楕円体(150*100μ)の褐色の玉が無数に出て来た。これも尾っぽらしきものが出ている。そして仮根に接してはいるが,つながってはいない。細胞構造が見えないのでピンセットで挟んだら,ピチッという音がしてつぶれた。何度やっても確かに音が聞こえる(笑)。中は空洞になっているようだ。

    これは何なんだろう?わけが分からなくなってきた。

  • 退会したユーザー

    退会したユーザー2010年05月05日 23:47 削除
    空洞と言うより、藻類かもしれません。
  • 丹後

    丹後2010年05月06日 09:37 削除
    》 山雀 さん

    ありがとうございます。ひとまず安心です。

丹後

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