かつてホソバノキンチャクゴケ P. subulatum とされていたもの。日本固有の新種として1994年に記載されたが(H. Deguchi, T. Matsui & Z. Iwatsuki),論文が10ページもあって読む気になれない。申し訳ないが「猫に小判」。ホソバノキンチャクゴケの方は世界の広布種で南半球にも記録がある。なお,ヤマトキンチャクゴは中国でも見つかったようである(K. L. Yip, 1999)。
各地の記録を見ると,北海道から九州まで広く分布しているが標本数が少ない。「分布: 主として本州中部」としている文献もあった。保育社の図鑑で「稀産」となっているのに気付いた。
田の畦にも生えるらしいが未だ見たことがない。初めての出会いは山奥(450m alt.)の放置されて荒れた林道路面だった。針状の葉が立ち並ぶ密なクッション,その中に沈んで明るい黄緑の〔朔〕がぎっしりつく。現地では一瞬ツチノウエノタマゴケ Weissia crispa が浮かんだが,痛そうな刺状の葉を見てシッポゴケ目の何かと意を強くした。平凡社の図鑑の写真通り。
〔朔〕が球形に近く雌苞葉の間に沈生,しかも小型の種となれば候補はごく限られる。葉は,根元の短い鞘部より上は中肋だけからなっている。同じキンシゴケ科のベニエキンシゴケ Ditrichum rhynchostegium とそっくりである。この葉の形で,多少とも似ている他種とはっきり区別できた。
キンチャクが気になったが,「巾着」で上部を紐で結んだ袋状の小物入れ(ポシェット?)のことであろう。〔朔〕の形をよく表している。
今年は天気が悪くて採集に行けず,本種が最初の新発見(自分にとって)。今年中に15種の発見を目指しているが(合計400種),だんだん坂がきつくなってかなり微妙である。残りが少ないこともあるが(隠岐での),年齢の坂もある。
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誰も知らぬ 山の桜に あひにゆく 山口いさを
山桜 山深ければ 羞ぢらへる 山口青邨
見かへれば 寒し日暮の 山ざくら 来山
今日キュウシュウホウオウゴケらしきものを見つけましたが、中肋がやけに強かったので困ってます。
隠岐には高い山も深い沢も無く,何よりも面積が狭いです。コケは東京近郊の方がはるかに豊富なはずです。仕方がないので私の場合,量より質で(笑)などと考えています。
W. crispa のサクはもっと球形で嘴も斜めに伸びず、まっすぐ伸びてこんなに長くないです。
図鑑に誤植は付きものですから、こういうのを見付けるのも面白いです。
関西でのPleuridium sublatum 気になって分布を調べてみましたが、私の採った海岸沿いの湿地の開けた場所標高0メートルからかなりの高標高まで割とたくさん出現しているようです。
しかも、ニュータウンのような街中の造成地でも結構見つかっているので割と普通にあるパイオニア的なものではないかと思ったりしています。見付けにくいかもしれませんが・・・
パイオニア種が出るようなところってわざわざ1日潰してまで見に行こうと思わないでしょうし。
造成地は柵で囲ってある場所が多く、立ち入れない場所が多いです。
でも、プロジェクトKさんのコメントを読んで、今度こっそり・・・・・等ということを考えてしまいました。
離島のフロラやファウナは種類数は少ないですが、比較的個性的なのではないかと私は思っています。私は、変わった種類が出る事と種類数が多い事は別に考えるべきだと思っています。
実はこの日はパイオニアを捜して歩いていたのでした。ヒメスギゴケ・ヤノウエノアカゴケ・ベニエキンシゴケ・ネジクチゴケ・ツチノウエノコゴケ・ヒョウタンゴケ・ケヘチマゴケ等が大量に出ていました。1ヶ所ですがナガスジススキゴケ Dicranella varia がぎっしりあってギョッとしました。その流れで高度を稼いでいて(放置された仮設林道)本種に出会ったものです。
パイオニアといえども量の多い少ないはあるようで,隠岐では本種は極稀です。またいつかどこかに現れる可能性は十分ありますが。
隠岐は本州と距離が近く(1万年前は陸続き),コケ的には離島だとは考えていません。
ただ,高等植物の場合はやや離島的な現象が見られます。島根や鳥取との比較で不思議がられることは結構あるのですが,西日本としてはやや特殊な位置にあることを忘れて(緯度は東京と同じ)いるようです。そういう意味では隠岐は西日本ではありません。
絶対に斜めに嘴が出ることはありません。
私も、標本に当たるまではぼんやりとしていた種です。
やはり、標本を見ることは大切だなぁと思います。
故中島徳一郎先生には本当に感謝です。
Weissia crispa と W. exerta の区別,“〔朔〕柄の長さ” と “〔朔〕の沈生程度” を重視したため混乱し,半ばあきらめていました。
> Weissia crispa は標本を見るとサクがホントに球形です。
> 絶対に斜めに嘴が出ることはありません。
この2行が大変です。野口先生の図を見ると確かにそうなっています。しかし,指摘されるまで気付きませんでした。
写真や図が目の前にあっても,「言葉」がないと気付くのが難しいようです。
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を見ると、嘴に大差ないような気がしますけど・・・
写真ではやはりつらいでしょうね。
この辺が写真同定の限界かもしれません。
各度とかで微妙に両方に取れたり・・・
実際、標本庫で標本を見ていたとき、わりとW. exertaがW. crispaと扱われてその後、Annotation cardで同定しなおされていたのを見ています。
特に下のW. exertaの写真は見ようによってはどっちとも取れるぶれ方と、種の概念の端っこぽい写真だったりしますね。
でも、大阪の中島コレクションを検討したときには、いくつも見ていると実体顕微鏡下でわかるほど、かなり明瞭な違いがあったと記憶しています。
まぁ、もう5,6年前の記憶ですが。
野外で形質が連続的に変化しているのだとすれば、私は区別する事に意味はないと思います。
それと、分子系統樹で果たして両者がはっきり分かれるのかどうかが問題でしょう。
そうなのかを確かめる必要がありますね。
2つの種がたまたま似た形をとることはあり得ます。もちろん,同一種の生育形の変化に過ぎないこともありますが。