同属のセンボンゴケ P. intermedia とともに極端に採集記録の少ない種で,“広島大学所蔵コケ標本データベース”にも,以下の2点しかなかった。他に文献で知り得たのが岡山県の記録のみ。
・Osaka-fu [Musci Japonici Exsiccati ]
・三重県伊勢市,1970-10-01,T. Magohuku
本当に珍しいものなのか,単に採集されていないだけなのかよく分からない。アゼゴケ Physcomitrium sphaericum にそっくりなので,うっかりすると見逃す。今回もそうだろうと思ってあまり期待してはいなかった。それでもわざわざ採集して検鏡する気になったのは,胞子体の感じが少し違うような気がしたからである。〔朔〕は空っぽになっていたが(熟期は秋〜春),〔朔〕壁が薄く半透明で明るい。そして,褐色で不規則な縦条(皺ではない)が目についた(乾燥時)。Physcomitrium ではこんな記憶はない。形もラッパ型で微妙に違う。
以前にも触れているが,葉身細胞の大きさ・形がまるで違っている。葉身上半部では方形〜六角形の小さな細胞(to 25μ)ぎっしり並びやや格子状(clathrate)に見える。一方,ツリガネゴケ属の葉身細胞は長くて大きく,長径で50μに達するものが多い。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=95788249&owner_id=2651499
センボンゴケ P. intermedia との区別点についてもその時書いたが,中肋の突出の計測値に疑問がある。今回は,P. intermedia 0.2-0.4mm 対 P. truncata ±0.1mm となった。いずれにしても,中肋は強く背面に飛び出し,先端ははっきりと針状になる。しかし,一番わかりやすい差は,〔朔〕の壺(urn)の形状であろう。
P. intermedia : 円筒形で樽形に中央部が膨らむ。つまり口部が多少狭くなる。
P. truncata : 倒三角錐状に“直線的に”広がり,口部が最も広い。わずかではあるがはっきり広い。ツリガネゴケ属のカップ状・ツリガネ状とも印象が異なる。
本種は,北半球全域及び南米(アルゼンチン)やオーストラリア・ニュージーランドにも分布する広布種だそうである。しかも,深山幽谷ではなく農耕地付近や道路際に出るという。今回は隣の島で(全4島),2度目の採集になる。隠岐での分布が確実になったと思う。山中の古い溜池の干上がった岸辺,ヒョウタンゴケ・ユミダイゴケ・ツリガネゴケ属などが一面に覆っている環境だった。土から少し頭を出した岩の上にぎっしり固まっていた。
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痩畑や 菜の花咲いて 春景色 日野草城
明るくて 冷たくもあり 花菜風 今井時子
小走りに 行く娘(こ)の素足 花菜畑 大津百合
やっぱり、町中のコケはまだまだ盲点ですね。
農耕地付近であまり記録にないようなものを何種か見つけています。隠岐が特別な場所というはずはありません。そういうフィールドがきちんと調べられていないのだと思います。
コケはアマチュアが少ないことも原因の一つでしょう。ネット上に“帰化植物”の情報が溢れていて(しかも上質の),常々感心しながら参考にしています。考えてみれば,都会に暮らしている人の一番身近な植物ですね。
各地のチェックリストに全く出て来ませんので(関東では神奈川・埼玉・千葉),決して普通種ではないのでしょう・・・。
これは人によって違いますね。「普通・稀」などの表現にしても,主観的な判断ですのでその人の採集範囲や経験によって差が出て来ます。
図鑑等の「普通種」というのも,必ずしも信用できません。単に“分布範囲が広い”というほどの意味のことがしばしばです。長い経験のある専門の学者が,日本全体を視野に入れて判断するとそうなるのだと思います。逆に,図鑑に「稀」となっている場合は「超稀」と考えてよいでしょう(一応は・・・)。
私自身の感じでも,最初は「極稀」だったものが時間が経って「やや普通」に変化したものが結構あります。採集範囲を近県に広げれば,また変るだろうと思います。この“分布量の評価”の曖昧さは,コケを始めて特に感じたことです。高等植物ではそれほどでもなかったんですが・・・。一つの算定法として「自分が何度出会ったか?」をカウントするというのはどうでしょうか。