ミチノクイチイゴケ H. perrobusta との差異があまりはっきりしない。A. Noguchi (1994): "I am not sure whether the two species should be specifically separated, since no important diffrences were found to distinguish them." という記述も気になる。
検索表では(Z. Iwatsuki 1970),以下のようになっている。
H. turfacea: 〔朔〕の蓋は円錐形で鈍頭,葉の長さは2.5mm以下,葉身細胞は幅4-6μm,細胞壁はくびれないのが普通。
H. perrobusta: 〔朔〕の蓋には鈍頭の短い嘴がある,葉の長さは3.5mm以下,葉身細胞は幅8-10μm,細胞壁はくびれることが多い。
(1) 青い(緑色)状態の蓋は今回初めて見た。きれいな三角錐(先端は切形に近い鈍)で嘴はないが,H. perrobustaと同一条件で比べてみる必要がある。
(2) 林内のボロボロの腐木上で,非常に生長状態が良さそうに見えるが葉の長さは2.5mm以下。しかし,今まで採集したH. perrobustaもせいぜい3mm前後なので,同定の十分条件にはならない。
(3) 葉身細胞の幅は4-5μm。H. perrobustaとしている標本は7-8μm。
(4) 細胞壁のくびれはなく葉下部でもかすか。H. perrobustaははっきり確認できる。葉下部では明瞭。
一番明快なのが(3)で,そもそも細胞の形が異なる。H. trufaceaは線状で細長く,はっきり波状にうねる。葉身細胞は確かに別物なのでそれで十分とも思えるが,外観上の差が全くないのが気に入らない。よく似た種と言われているものでも,何らかの見かけの差はあるものである。“全く同じで区別がつかない”というのは今まで経験したことがない。
それに,H. trufaceaの特徴とされる,(a) 葉がやや扁平についているように見える,(b) 時に葉先が下方へやや曲がる,という傾向がちっとも感じられない。さらに,葉身細胞の形や大きさ(特に長さ)にかなりの個体差が出るのもスッキリしない原因の一つである。
取りあえず採集地点の環境をメモしておくが,意味があるかどうかははっきりしない。
H. trufacea : 2ヶ所 薄暗い林内の腐木(2)。
H. perrobusta : 5ヶ所 流れの近くでかなり明るい場所。低木の樹幹(3),岩上(1),腐植土(1)。
---------------------------------
開くとも 咲くともいはず 蕗の薹 正岡子規
春の寒さ たとへば蕗の 苦みかな 成美
セーラー服の 丈の短かめ 蕗の薹 山田径子