イヌケゴケ S. fabronia は時々見かけるが,本種はまだ採集していない。だが,手許に同定済(det. Z. Iwatsuki)の標本があったので,両種を比較してみた。数値は標本での実測値。葉は太い枝の中央付近のもの。
(1) 直感的に分かり易い違いは,葉の出方であろう。
S. robustula: 一方向に揃って出て風に靡いているように見える(homomallous)。葉は枝に密着せず斜上(覆瓦状ではない),乾湿で変化しない。
S. fabronia: 乾いた時には葉は枝に密着,丸い紐のようになる(覆瓦状)。濡らすと変化して,枝が扁平状に見えてくる!強くはないが明瞭に平たく見える (When wet, the branch leaves are dicidedly complanate.)。葉は重なり合って覆瓦状を呈する。
(2) 枝の湾曲。
S. robustula: しばしば明瞭に湾曲する。判断に迷うようなレベルではない。
S. fabronia: 湾曲しない。
(3) 葉の大きさと形。
S. robustula: 長さ 0.7-1mmで大きく,次種の2倍はある感じ。披針形(〜卵状披針形)で,葉先は通常直線的に漸尖する。
S. fabronia: 長さは長くても 0.5mmで椀形に凹んで見える。卵状〜卵状披針形で,葉先がやや急に尖る(くびれるように)ことが多い。
(4) 枝と基物の角度。
S. robustula: 斜上(ascending)するというが,標本しかないので判断できない。
S. fabronia: 基物に密着する(creeping)ということで,確かにそのような生育型もある。しかし,平凡社図鑑や地職恵氏の写真のものは,「密着」というほどでもないようだ。残念ながら,このタイプの斜上の程度については忘れてしまった。
http://homepage3.nifty.com/OPNACC/information/plant/moss-ishi.htm
(5) 中肋。
S. robustula: 「通常は不明瞭(usually indistinct)」となっているが,次種同様確認はできなかった。
S. fabronia: 「無い(ecostate)」となっている文献が多いが,P. Majestyk (2008)は,「常に無い」を否定している。"But many leaves exhibit a very faint, short, double costa."
(6) 葉身細胞の長さ。変異もありそうでそんなには信用できない。
S. robustula: 30-40μ。
S. fabronia: 25-28μ。
(7) 間毛(cilia)の有無。胞子体があればこれが決定的!
S. robustula: 「無い」。胞子体付きのものに関しては,確かに無かった。
S. fabronia: 「1〜2本ある」。胞子体がなかったのでお手上げ。
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逃げやすき 日差のありぬ 侘助に 中川謙虚
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