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丹後の日記

ミヤマサナダゴケ Plagiothecium nemorale編集する
2009年12月24日14:09全体に公開
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自宅の庭から仰ぐ標高170mの丘陵の頂上に無住寺がある。地蔵の前の岩盤の凹みが蹲(つくばい)になっていて,絶えず水が流れ水位は常に一定に保たれている。そこの水際に垂れ下がるようにピタリと貼り付いていた。

アカイチイゴケに違いないと思って持ち帰った。検鏡したら葉身細胞が70-120*12-15(代表値で100*12.5μ)もあってまるで違う。ここからが長く,納得するまでに正味10時間以上かかった。以下がその経緯である。

× A. ミヤマサナダゴケ P. nemorare ではない。
 (1) 葉身細胞の幅が15-20(25)μではない。
 (2) 乾いてもほとんど変化せず,葉をひねったような特有の縮れ方をしない。

× B. マルフサゴケ P. cavifolium ではない。
 (1) 葉が強く扁平につき,基物に貼り付く。
 (2) 葉身細胞の幅がやや広め。

× C. コウライイチイゴケ Taxiphyllum alternans ではない。
 (1) 葉身細胞の幅が,6-10μよりはっきり広い。
 (2) 茎の切断面で表皮細胞が「小さく・厚壁」ではない。
 (3) 葉の基部が茎に明瞭に下延する。
 (4) 擬毛葉が見つからない。
 ・・・ここを抜け出すには時間がかかった。Noguchi (1994)では,葉身細胞の幅が9-12μになっており許容範囲のように思える。しかも翼部は発達しないと書いてある。更に,茎の表皮細胞は「小さく・厚壁」とは言えないまでも,「大きく・薄壁」というほどでもなかった。結局はっきり否定できたのは,同定済みの標本(Det. T. Osada)と比較したためである。

該当がなくなったので,再度Plagiothecium に戻った。
× D.マルフサゴケ P. cavifolium ではない。
 葉の形や付き方は激しく違うが,他のものではあり得ないのでこれにしようかと一時は考えた。「非常に変異の多い種」ということだし・・・。ところが採集済みの標本を調べてみて驚いた。葉身細胞の形がはっきり異なる。マルフサゴケはすらりと伸びた滑らかな線形で,決して「長い六角形や長い菱形」には見えない。

◎ E. ミヤマサナダゴケ P. nemorale である。
 葉身細胞の幅15-20(25)μというのが最大の難点である。Noguchi (1994) にある12-16μは何かの間違いではないかと思っていた。そこで確認のために過去の標本をすべて調べてみた。運良く12-16μ幅のものが1点だけ見つかった!通常は,幅が15μを越え20μ前後が多く長さは90μくらいまでであるが,この型のものは長さも100μを越えるものが多く,目で見た印象でもより細長く感じる。

思えば本種には随分悩まされてきた(初めはマルフサゴケとの区別)。極道息子のようなものか。外部形態の変化には気付いていたが,葉身細胞にも変異があるとは知らなかった。


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 エリカといふ さびしき花や 年の暮      山口青邨
 メタセコイヤ 錆色天に 年の暮        新井英子
 木が二本 しづまり返り 年の暮        永田耕一郎


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