スナゴケ節 Sect. Racomitrium (葉身細胞の腔上にパピラがある)は,かつて以下のようになっていた(A. Noguchi 1974)。
R. canescens var. canescens スナゴケ
R. canescens var. ericoides ハイスナゴケ
R. canescens var. epilosum (?)
現在は以下のようになっている(H. Deguchi 1989,Z. Iwatsuki 2004)。A.A. Frisvoll (1983) : A taxonomic revision of the Racomitrium canescens group (ノルウェイ)に従ったものである。
R. japonicum エゾスナゴケ
R. canescens ssp. latifolium スナゴケ
R. barbuloides コバノスナゴケ
R. ericoides ハイスナゴケ
R. muticum タテヤマスナゴケ
何故か平凡社の図鑑(H. Deguchi 2001)には,R. japonicum と R. barbuloides の 2種だけしか載っていない。
採集品はどうしてよいか分からず,旧来の学名のままにしてある。以下通常の R. japonicum と比較してみるが,肉眼でも迷うことなくはっきり区別できる。
(1) 低地,一ヶ所の狭い範囲でしか見ていない。 ⇒ ごく普通な多産種。
(2) 茎は長く這うことが多く,立ち上がっても上半部のみ。 ⇒ 茎は普通直立する。
(3) 短い房状の短枝が羽状に沢山つく。 ⇒ 短枝はほとんど出ない。
(4) 乾いても葉は茎にあまり圧着しない。特に葉先はばらけて広がる。 ⇒ 葉は茎に圧着する。
(5) 葉は細長くて漸尖,透明尖も細く長い。 ⇒ 幅広くて短く尖る。透明尖も短く尖る。
要するに保育社の原色図版にそっくりの姿である。図鑑 "Mosses of Eastern North America" にもそっくりの図があるが,こちらは中間形のある生態型に過ぎないとして,R. canescens fo. ericoides となっている。以前の扱いなら,疑いなく R. canescens var. ericoides と同定していたであろう。以下に述べるようなパピラについての言及はなかった。
ところが新しい分類では,「葉基部のパピラ」がキーになる。そして困ったことにパピラについては差がない。 R. japonicum のパピラについての詳細は以下の如くであるが,今度の標本も全くこの通りになっている。
「葉基部の細胞は,大きくて高い乳頭(幅の値より高さの値が大きい)をもち,比較的小さな乳頭をもつ中〜上部の細胞との差は明瞭。」
なお,図鑑 "The Moss Flora of Britain and Ireland" では,葉下部 1/3の位置・背面の中肋付近でパピラを比較している。
従って,パピラを重視すれば R. japonicum にせざるを得ない。そうすると上の (1) 〜(5) の差を無視することになり釈然としない。しかもこれらの形質は,まさに R. barbuloides コバノスナゴケのものである。
取り敢えずもっとこの型のものを捜してみる,くらいしか自分でできることはないだろう。そして,葉基部にパピラのない R. barbuloides を見付けよう(隠岐にあればだが)。
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よわよわと 日の行とゞく 枯野かな 麦水
よろよろと 撫子残る 枯野かな 尚白
狐のやうな 女に遇ひし 枯野かな 池ヶ谷一露
野外で識別するのに、低地では割と有効な特徴だと思います。
ちょうど、実体顕微鏡で茎から葉を落とす要領でピンセットで至極とコロコロと取れる感じの枝です。
西日本では比較的普通にあると思いますが。
隠岐では事情が違うのでしょうね。
>ピンセットでしごくとコロコロと取れる感じの枝です。
まさにそんな感じです。樹木でいう「短枝・長枝」の短枝を思い出します。
R. japonics と「葉基部のパピラの様子」に有意の差を見出し難いのですが,勇気を出して(笑) R. barbuloides としておくことにします。
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参考になさってください。
葉先があちこちを向く縮れ方にも違いがあります。短枝は房のようで,伸び出さない点も一致します。場所は農道の切取崖(柔らかい岩)でした。