実際にはツクシヒラツボゴケ G. ogatae の生態型だと思われる。見かけがあまりにも違うので,ここだけのジョークのつもりで取り上げる。
G. yakoushimae は環境省指定の絶滅危惧種 1類。分布は「九州・琉球」となっているが,「九州」とは屋久島のことではないだろうか。しかし屋久島にも,かの U. Faurie 採集のタイプ標本(1913)しかないという。他の記録では,唯一 『Date: 2000-10-22,Collector: H. Tsubota,Locality: 詳細は未公開』だけが見つかった。
G.ogatae も採集しているので,それと比較しながら特徴を書いた。ただ,両方とも見たのは一ヶ所ずつなので,常にそう言えるかどうかは分からない。
(1) 環境
低山地の照葉樹林内の薄暗い場所。渓側の乾いた岩の斜面。雨が降ったときのみ多少水が流れる。あまりコケは生えていないが,イセノイトツルゴケ Heterocladium capillaceum の群落が並んでいた。この種は林内の暗くて空中湿度の高い場所を好むが,湿(wet)岩上で見ることはほとんどない。
G.ogatae は向陽の湿岸壁で,一年中常にきれいな水が滴っているような場所(ここは多分上部に湧水)。これは標準的な環境であるが,濡れてない場所も平気かどうかは分からない。
(2) 色
鮮やかな緑色をしており,検索条件の「しばしば赤褐色になる」兆候は全く感じない。G.ogatae は赤褐色に染まって緑色はほとんどない。ただこれは,日向と日陰の差という可能性もある。
(3) 鞭枝化
ほとんど常に,茎の先が細く長く伸び,細い葉をまばらにつけて非常によく目立つ。G.ogatae ではごくごく稀にしかそのような枝は見られない。つまり,鞭枝は通常はない。
(4) 葉のつき方
G.ogatae は茎を包むように(弱く圧着)やや覆瓦状について,茎が丸みのある紐状になる。こちらは,隙間があり開出してどちらかといえば扁平気味。これも外観上の著しい差異。
(5) 葉
「急に短く突頭」で断じて「鈍頭〜広い鋭頭」ではない。よって検索表からは,色+この条件で G.yakoushimae に決まってしまう。葉は卵状披針形で葉先は漸尖,先端は鋭くはないが,「円頭気味の舌形」の葉などは 1枚もない。この違いは大きくとても同一種とは思えない。葉の大きさも長さ±0.7mm で,G.ogatae の半分ほどだが,これは環境条件の差も影響しているか?
(6) 葉身細胞
個体により葉により変化があるが,長さは最頻値で 40μ。同じく G.ogatae は50μ。有意の差があると思うが,それぞれ文献にある数値よりも大分短く,不思議なことの一つだ。また,虫状に波打つうねり方が G.ogatae よりも更に激しい。細胞上端部のパピラの位置にも差がある。本品は細胞にほぼくっついているが,G.ogatae はかなり離れて細胞壁の中に浮かぶ。
ヤクシマヒラツボゴケ G. yakoushimae と同定してもよさそうなものだが,以下のような点が矛盾する。
(1) 分布が「九州・琉球」。 ・・・ しかも九州は多分「屋久島」。
(2) 大きい(plants large)。 ・・・ むしろはるかに小さい。
A.Noguchi (1994): Illustrated Moss Flora of Japan の図で,
(3) 葉の上半部が幅広い。 ・・・ 中間部が最も広く,そこから漸尖。先端はそっくりだが・・・。
(4) 翼部の細胞が短矩形。 ・・・ 確認できない。G.ogate の方に近そう。
こんなことをぐずぐず書いていて,何かの役に立つんだろうか。もちろん,「そんなこと(有益or無駄)はどうでもよいのだ」と言うことはできる。
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故郷は 薄日に石蕗の 花ざかり 浮田みつ
花石蕗に さしてうす日や かげりがち 長谷川素逝
石蕗咲いて 日本海は 荒れ勝ちに 山崎あさ子