同定のことではなくて無性芽の話である。無性芽だらけのオオハリガネゴケを採集した。茎の上半分を(仮根ではなく)糸状の無性芽がぎっしり取り巻いている。 ちょっと気味悪いほどの量だ。無性芽は 1列の短矩形の細胞がつながって( 10個以上)棒状に伸びたもので,表面には細かなパピラがある。目視では束ねた棒のように見え,色は暗い黄褐色。平凡社図鑑のカラープレートの写真にそっくりだが,これは本当に「仮根」なのだろうか?
同定は疑い得ないので,どこかに「無性芽をつける」という記述がないかと捜してみたが見つからない。ツクシハリガネゴケ B. billardieli やランヨウハリガネゴケ B. cyclophyllum がよく似た無性芽をつけることを知っていたので,まあいいかとも思ったが気分がスッキリしない。モヤモヤが二三日続いていた。
実は,手許にある図鑑(Mosses of Eastern North America)で見落としていた。索引をたどる時に間違えたらしい。以下のような文があったので(図も)一件落着。
Stems ... rarely felted above with filamentous, brown brood bodies.
「なるほど Rarely(稀)なのか,道理で・・・」と思って喜んだ。そして,過去の標本を 1つ念のために調べてみた。そしたら,仮根の中から無性芽がぼろぼろ出て来た。仮根に隠れて気付かなかったようだ。何だ!ということで,残りの標本( 3点)も調べたが,それらにはなかった。果たして Rarely なのかどうか。
なお,"MOSS FLORA OF JAPAN" にはハリガネゴケ B. capillare の無性芽の図がある。これは驚いた。
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ところどころ 菊ある野良の 時雨れけり 松本たかし
龍膽に 日のさして居る 時雨かな 野村泊月
みづひきの 枯れてみにくき しぐれかな 久保田万太郎
コケの情報は少ないですね。高等植物でのWEB上の大騒ぎが羨ましいです。