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丹後の日記

ツムウロコゴケ Jungermannia fusiformis編集する
2009年11月08日14:36全体に公開
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薄く水の流れ落ちる岩上,水の中に濡れて生えていた。色は暗いワインレッドで,背景の黒い岩に沈んでよく見えないほどだった。Jungermannia には時々赤味を帯びるものがあるが,これほど強烈なのは初めてである。部分的に赤く色づいた場所があるというのではなく一面に赤い。念のために捜してみたら,緑色の個体からなる小集団も少しだけあった。

検鏡して驚いたことは,(1) ペリギニウムがない,(2) 仮根がほとんど無い,(3) 葉縁(一列)の細胞が矩形で厚壁,という点であった。葉縁の細胞が多少とも厚壁になる傾向は一般的だが,これほど明瞭なケースは初めて経験した。他にカタツボミゴケ J. kyushuensis が有名であるがペリギニウムが著しく発達する点が異なる(亜属が別)。

検索表は平凡社図鑑のものを使うことにした。似た種が多いので「石橋を叩いて渡る」必要がある。
 A. ペリギニウムはほとんど発達せず,最内側の雌苞葉が造卵器とほぼ同じ高さにつく。
 B. 花被の先は嘴状に尖る。
 ・・・ これは微妙な点があるが,花被を数多く点検すると先端がはっきり突出したものが見つかる。「嘴状に尖らない」グループは先端が円鈍,少なくともつまんだような突起はできない。
 C. 花被の先は漸尖。無性芽はない。
 D. 葉は背縁と腹縁の基部が下延しないか,またはやや下延する。
 E. 葉縁の細胞はほかの細胞より明らかに大形で,壁が著しく厚い。
 ・・・ 「明らかに大形で」は,すぐ内側に近接している細胞と比較する。中央部には大きな細胞もあるので。あるいは,きれいな「短矩形」という形の違いの方が分かりやすいかも知れない。時には「厚壁」が著しくはない個体も混じる。
 F. 葉は長さが幅より長い。油体はブドウ房状。
 ・・・ これも注意が必要である。茎の下の方の斜めにつく葉で縦横を比較すること。茎上部の横につく(水平)葉は幅の方が広い。油体はやや大粒の微粒状で,径 7-10μの球が(1)2-4(5)個ある。時に,・楕円体になったり,・ブドウ房状になったり,・大きな粒が眼点化する,こともある。

なお,苞葉は普通葉と変わらず,花被は著しく突出する。また,花被の上部は強烈な 3-4稜形となるが,はっきりしないこともある。しかし,捜せば必ずそのような見事な花被が見つかるはずである。とにかく,採集は花被のできる晩秋に限る。

 【追記】
「T. Amakawa: Family Jungermanniaceae of Japan」 の検索表で,
 B. 花被の先は嘴状に尖る。
の箇所に,「花被の上部の細胞は縦横同長(isodiametric)」という付記がある。本種はどう考えても「縦横同長」ではないので困っていたが,次のように考えるべきだと思う。

本種は,「細く長い矩形」と「方形に近い」グループの中間形で,そんなに長くは伸びませんという意味である。つまり,方形に近いグループ内の例外種。実際には代表値(中間値)で 50*35μくらい。確かにあまり長いという感じはしない。


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 山里や 烟(けむ)り斜めに うすもみぢ       闌更
 年頃の はじらひに似て 薄紅葉         岡野とく
 肌さむし 竹切(きる)山の うす紅葉        凡兆



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