和名は Z. Iwatsuki: New catalog of the mosses of Japan (2004) のものを使う。ただし過去の文献では,変種を分ける場合も広義の A. filforme も「ヒメギンゴケモドキ」になっているようだ。A. Noguchi: Illustrated Moss Flora of Japan (1988) に従って変種を分けて考えることにするが,A.J.E. Smith: The Moss Flora of Britain and Ireland (2004) も同じ扱いである。
非常に変わった姿をしていて似たものはないと思う。一瞬「コケかどうか?」と迷ったくらいである。目視で同定ができる数少ないコケの一つであろう。保育社図鑑のカラー図版を思い出して「これがそうか」と安心した。薄い黄色〜黄褐色に見え,白っぽく光る感じがある。葉はほとんど透明で基部でわずかに葉緑粒を含む(ごく若い新芽は例外)。光合成で苦労しないのだろうか。透明な葉・光沢・葉が覆瓦状(imbricate)につく点は確かにギンゴケ Bryum argenteum に似ている。
葉がぴったり茎に貼り付いて丸い一本の棒状,「濡れても乾いても開かない」というのが著しい特徴で,竹の子を思わせる。葉腋につく褐色の無性芽が透けて見え,それが竹の節のようだ。葉の付き方は "julaceous" と書いてあるが "imbricate" との意味の違いがよく分からない。
世界の広布種で変異が非常に多いということだが,今回の標本は var. concinnatum (きれいな・上品な) の典型品で同定はあっという間にできた。楽ちんだが簡単過ぎて物足りない。何日も苦しむのもイヤだが,少しは考えないと面白味がない。
日本での分布は「北海道〜琉球,小笠原」となっているが,採集記録は妙に少ない。量は多くないのであろう。隠岐島でも 5年目にしてやっとぶつかった。できて数年の新しい林道の切取崖(260m alt.),金網を被せて薄くコンクリートを吹き付けてある。ネジクチゴケが少し混生,そばにゼニゴケとヒョウタンゴケが大量にあった。湿った砂質土。何故,山奥に一ヶ所だけあるのかがちょっと不思議だ。
本種の特徴は以下のよう(A. filforme var. filiforme と対照)。ただ「いつも常にこう」ではないかも知れない。
(1) 葉は楕円状披針形で,広卵形ではない。
(2) 葉先は尖り,円鈍ではない。
(3) 中肋は短く突出し,はるか下で終ることはない。
(4) 葉身細胞は巨大で ca. 110×10μ,45-60×4-5μとはまるで違う。
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ここに来て 死ねよと山河 黄落す 籏 こと
途方もなく 遠くへ来たり 黄落期 安原光子
黄落や ワインレッドの ハイヒール 高橋悦子