ミドリゼニゴケ属は初体験。よく知られている種だが,今頃気付くということは隠岐には少ないのだろうか。あるいは目にしてはいるが意識化できていなかったのか。標高 600mのよく霧のかかる山頂(隠岐の最高峰),林内のボロボロの腐木に貼付いていた。一面にツツソロイゴケ Jungermannia subulata も広がっていて,非常に湿土の高い場所であること示している。
見た途端に「これが例の Aneuraだな」と思ったが証拠はない。網目模様が見えないし気室孔(pore)もないので,ゼニゴケ綱でないことだけは確実だった。ミズゼニゴケ科とマキノゴケ科に形が似ていて,そうではないことを確かめるのに少し時間がかかった。色々違いはあるが,決定的なのは雄器が短側枝(短くて枝の感じはしない)にできる点であろう。造精器腔の深い穴が固まって並ぶ。肝心のカリプトラは時期が悪いのか(3月?)できていなかった。と言うより,雄株だけのようだ。
同定は油体の観察だけでほぼ用が足りた。つまり本種だと確信が持てた。ただし,最初は油体が見えずしばらく茫然としていた。油体がないとなれば五里霧中のお手上げ,行着く場所がなくなる。葉面が暗くあるいは葉緑体に紛れて,油体はほとんど見えない。図鑑はその辺の事情に全く触れないし,どうやって観察するかも書かない。書くのが面倒臭いというわけか。
葉のへり( 1層)で明るい場所を探せば,葉緑粒が少なく透明になっていて油体が確認できる。あるいは,葉の表皮部分を適当に剥取って薄くし,光を通しやすく明るくすることもできる。油体は微粒の集合(薄い灰色)で球〜卵形,大きさは 3〜7μ,各細胞に 10〜20個。個数は焦点をずらしながら数えるので妙にはっきりしない。10個より少ないこともあるが普通は 10個に近い。多いものは確実に 20個を越えるが実際の数ははっきりしない。ただし,表皮細胞での油体の話。内部細胞は若干違うが,考えなくてもよいだろう。
この油体の特徴だけでも,他科の似た種や近縁の種と区別することが可能だと思う。ただし,変化の大きい種なので慎重に判断した方がよい。現に,保育社の図鑑では「油体は通常 5-10 個」となっている。次の目標は希産種ミズゼニゴケモドキ A. maxima の発見である。本種とともに井上博士による隠岐での採集記録がある。残りの 3種は可能性なし。
イギリスの図鑑に,greasy in appearance (脂っこい・滑らかな外観)とあって感心したのだが,学名の pinguis も「油性の」という意らしい。厚みのあるビニールのようで,確かにねっとりとした質感がある。ただし,「強いて言えば」という程度。加えて,ぎっしりと生えるやたらと丈夫な仮根(ベージュ色)も印象が強い。基物にぴったりと密着して剥がすのに手を焼く。
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ぞんざいに 桜もみぢの 散るばかり 高澤良一
桜黄葉 ほろびのひかり 道に充つ 大野林火
愛するは 桜紅葉の ベンチかな 磯田みどり
多分、雄株だけなのでしょう。
しかし翼部の横断面で区別が容易なようです。私も切片を作ってみる事にします。
「類似種との区別点」のところでは、「葉状体の色で区別する」とは書かれていないので、色を当てにするのはやめました。
古木論文のスケッチでは油体も違うように見えますが、変異に富むそうなので、私は当てにしません。
(1) 暗い濃緑色で,分厚くビニールのような質感。葉の厚みは薄くもないし, 明るく半透明(translucent)でもない。
(2) 基物が林内の腐木で,決して水に濡れるような場所ではない。
(3) 油体に微塵のような小さなのが含まれない。
若い部分は5細胞幅を越えますが根元付近は1細胞幅だったりします。こういった場合はどう判断するのでしょう?
生育場所は湿土上です。
一般論ですが,通常は大きい方で判断します。
「湿土」は両方ともあり得るようです。
油体が重要な手がかりと思うのですが・・・。縁の1層部分や,表皮をはぎ取って(明るくして)検鏡する。
他に,葉状体の厚みと幅にも差があるようです。
やはり油体ですか……
油体は、灰色ではありません。明らかに透明に近いです。しかし微粒か単粒かはっきりしません。単粒のような微粒のような……
浅井さんが掲載したホソバミズゼニゴケよりは単粒に近いですし、あそこまで灰色ではありません。
補足です。
少数の両極端値は無視して,2-4が主体か/or 6以上のものがかなりあるか?
油体内部の粒状性には差がないようです。保育社図鑑の「単粒」は間違いだということです(井上弘 1976)。
それよりも,油体の大きさが全然違うように思いますが・・・(1:3)。1-2μの小さなのが多く含まれるかどうか?
光に透かした時に,明るく見えるかどうかも違うように思います(記載に依ると)。