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丹後の日記

ミドリゼニゴケ Aneura pinguis編集する
2009年11月01日10:59全体に公開
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ミドリゼニゴケ属は初体験。よく知られている種だが,今頃気付くということは隠岐には少ないのだろうか。あるいは目にしてはいるが意識化できていなかったのか。標高 600mのよく霧のかかる山頂(隠岐の最高峰),林内のボロボロの腐木に貼付いていた。一面にツツソロイゴケ Jungermannia subulata も広がっていて,非常に湿土の高い場所であること示している。

見た途端に「これが例の Aneuraだな」と思ったが証拠はない。網目模様が見えないし気室孔(pore)もないので,ゼニゴケ綱でないことだけは確実だった。ミズゼニゴケ科とマキノゴケ科に形が似ていて,そうではないことを確かめるのに少し時間がかかった。色々違いはあるが,決定的なのは雄器が短側枝(短くて枝の感じはしない)にできる点であろう。造精器腔の深い穴が固まって並ぶ。肝心のカリプトラは時期が悪いのか(3月?)できていなかった。と言うより,雄株だけのようだ。

同定は油体の観察だけでほぼ用が足りた。つまり本種だと確信が持てた。ただし,最初は油体が見えずしばらく茫然としていた。油体がないとなれば五里霧中のお手上げ,行着く場所がなくなる。葉面が暗くあるいは葉緑体に紛れて,油体はほとんど見えない。図鑑はその辺の事情に全く触れないし,どうやって観察するかも書かない。書くのが面倒臭いというわけか。

葉のへり( 1層)で明るい場所を探せば,葉緑粒が少なく透明になっていて油体が確認できる。あるいは,葉の表皮部分を適当に剥取って薄くし,光を通しやすく明るくすることもできる。油体は微粒の集合(薄い灰色)で球〜卵形,大きさは 3〜7μ,各細胞に 10〜20個。個数は焦点をずらしながら数えるので妙にはっきりしない。10個より少ないこともあるが普通は 10個に近い。多いものは確実に 20個を越えるが実際の数ははっきりしない。ただし,表皮細胞での油体の話。内部細胞は若干違うが,考えなくてもよいだろう。

この油体の特徴だけでも,他科の似た種や近縁の種と区別することが可能だと思う。ただし,変化の大きい種なので慎重に判断した方がよい。現に,保育社の図鑑では「油体は通常 5-10 個」となっている。次の目標は希産種ミズゼニゴケモドキ A. maxima の発見である。本種とともに井上博士による隠岐での採集記録がある。残りの 3種は可能性なし。

イギリスの図鑑に,greasy in appearance (脂っこい・滑らかな外観)とあって感心したのだが,学名の pinguis も「油性の」という意らしい。厚みのあるビニールのようで,確かにねっとりとした質感がある。ただし,「強いて言えば」という程度。加えて,ぎっしりと生えるやたらと丈夫な仮根(ベージュ色)も印象が強い。基物にぴったりと密着して剥がすのに手を焼く。


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コメント

  • 退会したユーザー

    退会したユーザー2010年03月27日 20:22 削除
    ミズゼニゴケモドキだと、カリプトラは秋に出来ています(11月)。

    多分、雄株だけなのでしょう。
  • 丹後

    丹後2010年03月27日 21:21 削除
    早速気をつけて探してみることにします。(多型な)ホソバミズゼニゴケと思って見過ごさないよう。環境まで同じですね。
  • 退会したユーザー

    退会したユーザー2010年03月28日 18:20 削除
    古木論文によると、ミドリゼニゴケとミズゼニゴケモドキは似ているそうです。
    しかし翼部の横断面で区別が容易なようです。私も切片を作ってみる事にします。
    「類似種との区別点」のところでは、「葉状体の色で区別する」とは書かれていないので、色を当てにするのはやめました。
    古木論文のスケッチでは油体も違うように見えますが、変異に富むそうなので、私は当てにしません。

  • 丹後

    丹後2010年03月28日 21:10 削除
    確かに翼部の広さが違うようですね。この日記を見ると,何故か両種の区別に悩んでいないですが,次のような根拠だったと思います。

    (1) 暗い濃緑色で,分厚くビニールのような質感。葉の厚みは薄くもないし, 明るく半透明(translucent)でもない。
    (2) 基物が林内の腐木で,決して水に濡れるような場所ではない。
    (3) 油体に微塵のような小さなのが含まれない。
  • 退会したユーザー

    退会したユーザー2010年03月28日 21:30 削除
    暗い濃緑色という事は、平凡社図鑑のミドリゼニゴケの写真とは違っていたという事でしょうか。私が覚えている限りでは、平凡社図鑑の写真は白っぽい黄緑色だったような気がします。
  • 丹後

    丹後2010年03月29日 10:31 削除
    違っていました。ただし記載によると Yellowith to deep green。ここの写真,生態写真といいながら時々首を傾げるようなものがあります。つまり,典型としての特徴が出ていない。もっとも,選択の自由があまりなかったのかもしれません。ただし,キャプションは有益です。ここにあるような表現は本文にはないので。
  • 退会したユーザー

    退会したユーザー2010年03月29日 15:01 削除
    私の標本の翼部を確認しました。

    若い部分は5細胞幅を越えますが根元付近は1細胞幅だったりします。こういった場合はどう判断するのでしょう?

    生育場所は湿土上です。
  • 丹後

    丹後2010年03月29日 18:03 削除
    > 若い部分は5細胞幅を越えますが
    一般論ですが,通常は大きい方で判断します。

    「湿土」は両方ともあり得るようです。

    油体が重要な手がかりと思うのですが・・・。縁の1層部分や,表皮をはぎ取って(明るくして)検鏡する。

    他に,葉状体の厚みと幅にも差があるようです。
  • 退会したユーザー

    退会したユーザー2010年03月29日 19:13 削除
    > 丹後さん

    やはり油体ですか……

    油体は、灰色ではありません。明らかに透明に近いです。しかし微粒か単粒かはっきりしません。単粒のような微粒のような……

    浅井さんが掲載したホソバミズゼニゴケよりは単粒に近いですし、あそこまで灰色ではありません。
  • 丹後

    丹後2010年03月29日 20:17 削除
    > 若い部分は5細胞幅を越えますが
    補足です。

    少数の両極端値は無視して,2-4が主体か/or 6以上のものがかなりあるか?

    油体内部の粒状性には差がないようです。保育社図鑑の「単粒」は間違いだということです(井上弘 1976)。

    それよりも,油体の大きさが全然違うように思いますが・・・(1:3)。1-2μの小さなのが多く含まれるかどうか?

    光に透かした時に,明るく見えるかどうかも違うように思います(記載に依ると)。

丹後

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