今更という気もするが,今日採集したものにはしばらく悩まされた。本種は普通「葉縁は 2-4細胞層,厚膜で膨らみ厚みが感じられる(一種の舷)」のだが,全くそうではなかった。平滑でやや明るくはあるが厚みはない。むしろ薄く見えて,トサカホウオウゴケ F. dubius だろうかと思った。
トサカホウオウゴケではないことをはっきりさせる必要がある。そのためには,中肋の表皮細胞(上翼部分)を観察するのがよい。F. nobilis は「整った短矩形」が並んで整然としているが,F. dubius は「長い線状の不規則な形の集合」でごちゃごちゃに見える。これは一目で分る。他に,葉の切片を作って「葉縁が 1細胞層」ではないことを確かめてもよい。
切片を観察してあきれた。
(1) 腹翼を除き,全体が 2細胞層(葉縁も)。ごく稀に 1細胞層の箇所が挟まる。
(2) 全細胞に高い明瞭なマミラがある。先端は鈍とはいうものの正三角形よりも高く,感じはほとんどパピラ。腹翼は外側だけだが,やや小振りなだけでこれも強烈。
(3) 葉縁の 2列ほどの細胞は平滑かつやや厚膜だが,葉身内部よりふくらむ感じはない。マミラの厚みに負けたか・・・。
(4) 中肋の側面も突起が出る。そして以上の全マミラは,表面から(断面ではなく)はっきり確認できるほど顕著。こんな,葉面がザラザラの Fissidens を初めて見た。
要するに,普通の F. nobilis とは大分違うものだ。しかし,別の種ということはあり得ない。大体,葉身が 2細胞層になるものは本種と F. dubius の 2つしかない(※註)。そして,F. dubius の 2層部分は部分的で少なく,特に葉縁は必ず 1層であると思われる。
(※註) 葉縁の舷部は除く。また,葉身が分厚くなるミヤマホウオウゴケ F. perdecurrens,ホソホウオウゴケ F. grandifrons,オガサワラホウオウゴケ F. boninensis の 3種は無視。
なお,本種 F. nobilis の特徴として「葉縁が暗く縁取られる」と図鑑に書いてある。初期の頃,これには随分とまどった。むしろ明るく(やや黄色)見えたためである。平滑で厚膜なのだから,それも当然という気がする。ただ,標本ではそのように見えることもあるし(今日気付いた),過去の同定メモを見たら「新鮮な状態で明瞭に縁が薄暗い」ものが 1点あった。これは何なんだろう?
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おだやかに 日をあびてゐる 秋のばら 近藤 愛
若くして 女の余生 秋薔薇 宮本由太加
秋さうび 傷つかざれば 詩は生めず 志達藤花