ヒメタチゴケ A. rhystophyllum の存在は知っていたが（低地のものはすべてこれ），ナミガタタチゴケ var. undulatum と 本種 var. gracilisetum の検討はそのままになっていた。厄介そうだったのでほとんど採集もしていない。
胞子体が 2本ずつでている集団を見付けたので採集して来た。1本のものが混じり 3本のものはない。母種ナミガタタチゴケに比べて以下のような違いがあるという。
var. undulatum ⇒ var. gracilisetum
(1) 高さ： to 4cm ⇒ やや小形
(2) 葉： to 8×0.8mm ⇒ やや幅広い to 8×1.3mm
(3) �檗А…裟検い笋簣儷覆祁垢� ⇒ 時にやや側生，曲らずほぼ直立
(4) �殃繊А�1（-3）本，赤褐色 ⇒ （1-）2-3本，黄褐色
(5) 雌雄同株（異苞） autoicous
⇒ 雌雄列立同株 paroicous または雌雄同株（同苞） synoicous
今回の採集の動機となったのは (4) だったが，やや var. gracilisetum よりという程度ではっきりしない。(2) の実測値は 8×1.2mmでよさそうだが，まさかこれだけで決定するわけにもゆかない。結局 (5) に頼るしかないと思った。しかし，雄花 Perigonia を捜すのは容易ではない。「Flora of North America (2007)」に，"Perigonia inconspicuous（目につきにくい）" と書いてあって大いに助かった。やっとそれらしきものを見付けたところで，次の西村先生の文章に出会った。
http://www.ous.ac.jp/garden/My%20HP/NishiPhotos/Atrichum%20undulatum%20gracilisetum041011.htm
まさにこのようになっている。「雌雄列立同株」という解釈である。そうかもしれないと 75%は納得できた。引っかかっていたのは，「Illustrated Moss Flora of Japan (A.Noguchi 1987)」の図版である。これが「雌雄同株（異苞）」とはとても思えない。
ブレークスルーは，雌苞葉内部の詳細な解説を，前記 "Flora of North America" で見付けたことからやって来た。この図鑑では独立種 A. flavisetum とし，「雌雄同株（同苞）」という解釈である。
http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=250063195
・そこの記述と・西村先生の説明と・自分の観察， 3者がぴったり一致した。「奇妙な図」はしばらく棚上げ，一旦休戦することにする。次はむしろ，ナミガタタチゴケ var. undulatum の方の雄花を見てみたい。どこにどういう風についているのか。
---------------------------------
いちまいの 刈田となりて ただ日なた 長谷川素逝
日当れる 刈田の中を 歩きけり 早川草一路
夕刈田 水のかけらの 光りけり 高井北杜
