僅かに,
・高知県 (タイプ)
・宮崎県 (Hattori & Nog.)
・三重県 (孫福正 「三重県の蘚類」 4点,流石!)
・鹿児島県 (屋久島 2002-3-24 H.Deguchi)
の記録が見つかった。何故か「屋久島の蘚苔類目録」(2007 蘚苔類研究)には載っていない。また,日本固有種とされているが,ネット上で検索すると中国の目録(2008)にも出て来る。
山裾の神社の境内に,きれいな水が一年中流れている水路がある。そこに(コンクリート壁の水際)エゾホウオウゴケ Fissidens bryoides var. bryoides のよい産地があり,胞子体が熟しつつあって今が採集の適期である。欲張って少し多めに採ったらその中に混生していた。最初は立上がるコケ(頂蘚類 acrocarpous) と思って「こんな種はあり得ない!」と一旦は投出した。気を取直して,もう一度しつこく調べたらシトネゴケ目のようである(標本の量が少ない)。
中肋は太く葉頂に達するか,または少し下で消える(枝葉に多い)。葉身細胞は歪んだ長めの菱形で 15-20×ca. 5μ。斜め上隅の細胞壁上に突起があり,かなりよく目立つ。葉身細胞の上端が光る属をすべて(その積り)チェックしたが,迷うようなものはかった。円味のある菱形の細胞や,斜め方向の並び方を見ていると,「ウスグロゴケ科に違いない」という気がしてくる。翼部はほとんど発達せず(せいぜい短い矩形に近づく程度),水辺を好むことから,アサイトゴケ属 Pseudoleskeopsis も疑う余地がない。そして,普通種アサイトゴケ P. zippelii とは葉身細胞の大きさがまるで違う。
記載とはよく合っているが(中でも Branch-leaves often slightly curved and asymmetrical. は気に入っている。),(1) 葉が密につく,(2) 深く凹む,の 2点が多少気になる。葉間に隙間があり,深く凹む感じもない。枝葉が 1-1.5×0.5-0.7mm より少し小さいという問題もあるが,これは単なる生育状態の差であろう。自宅のすぐ近く,しかも安定した環境なので今後も観察を続けられる。いずれそのうちはっきりするだろう。
自分でも信じられないような種を,今まで何度か同定してきた。これもその一つで,とても本当とは思えない。もし,当っていたらかなり注目してよい発見だろう。
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秋麗(うらら) ガラスの如く 村ありぬ 大橋敦子
秋麗の 極みに蜘蛛の 遊び糸 高田秋仁
秋麗の 雑巾なのか 犬なのか 彌榮浩樹
別の島の滝壺(300m alt.)でコシッポゴケ Blindia japonica を採集したが,その中に混じっていた。どうやら夢(ゆめ)幻(まぼろし)の話ではないようだ。
やはり水に濡れやすい場所で,ごく少量( 2本)の混生。そういうひねくれた性分なのだろうか。
ただし,今度のは大きくてシトネゴケ目であることがはっきり分る。そして,(1) 葉が密につき,(2) 大きめの葉でかなり凹む。不安が消えてスッキリした。