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丹後の日記

ムカデネジレゴケ Tortula norvegica編集する
2009年08月25日16:00全体に公開
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また奇妙なものを採集した。場所は標高 250m,林道の明るい切取崖(やや湿った岩)。採集記録がほとんどないような感じの種だが,広島大学の標本データベースには 1985年のものがある。産地は「静岡-山梨-長野県を中心とした山岳地帯」となっている。日本での他の情報は,唯一神奈川県の記録のみが見つかった。
“大山(神奈川県)の蘚類”(2001 平岡環境科学研究所),以下は本種の説明の全文。
 
『 参道 (850m,石碑,Iw-5058)
尾根道の自然石に蓑毛道と刻まれている道標に極小量着生していたがこの1点のみの採集であり,この属では茎に中心束がないのが特徴である。産地は岩月や野口は北海道,本州であるとし,斉籐は長野県の白馬岳(2932.2m),仙丈岳(3032.7m),山梨県の北岳(3192.4m)等の高地から報告している。日本では標高1,000m以下の場所で採集されるのは珍しいといわれる(木口,私信)(図2F,G)。 』

平凡社の図鑑の検索表では,「茎に中心束がない」ことを確認すれば同定は終る。ただ初めての種の場合,中心束の有無は結構微妙なことがある。特に中心束の分化が弱い場合。本種は茎がポロポロちぎれやすく,かつ非常に柔らかいのできれいな切片が作りにくい。中心束がありそうな感じはないのだが,他の形質も援用して安心を得たい。

「毛尖(突出した中肋)が明瞭にざらつく(細胞の突出による低い刺)」ので,本種かミヤマコネジレゴケ T. sinensis のいずれかに限られる(平凡社の図鑑にある種)。この 2種を区別するのに,Flora of North America (2007) の検索表を使うことにする。
(1) 葉基部の細胞の幅
 T. norvegica : 11-23μ,  T. sinensis : 20-40μ
  標本は±15μ,20μに達することは稀。
(2) 葉形
 T. norvegica : 下から1/3の場所で最も幅広く,そこから葉先に漸尖。
 T. sinensis : 葉は中央付近で幅が狭まる(へら形)。
  標本は長楕円形でへら形の傾向は皆無。

以下は,ごく普通種のヘラハネジレゴケ T. muralis と大きく異なる点である。
(1) 茎の高さ(葉を含めず)が±10mm,立ちあがって大きい。 ⇒ せいぜい 数ミリでごく短い。(2) 葉縁はほとんど反曲しない。 ⇒ 葉縁はほぼ全周にわたって強く反曲し一見舷状。
(3) 葉先は円頭〜鈍頭,ごく稀に凹頭。 ⇒ 通常明瞭な凹頭が主体。
(4) 毛尖は雌苞葉を除き,葉身の半分程度,下部の葉では単に微突起のこともある。 ⇒ 毛尖は更に長く葉身と同長のものが多い。
(5) 葉身細胞のパピラに,円形(見え方で)のものが 1(-2)個含まれ目立つ。 ⇒ 小さなパピラが沢山あって(主にC字形),円形のものはない。
(6) 葉身細胞はやや厚角の矩形で,下方の透明部へ突然変化する。下部は極端に長い矩形。 ⇒ 葉身細胞は矩形で薄壁,下方に行くにつれやや長めの矩形に徐々に変る。


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 さういへばもう秋か 風吹きにけり         今井杏太郎
 秋めくや あゝした雲の 出かゝれば        池内たけし
 秋の道 日かげに入りて 日に出でて       日野草城


コメント

  • 丹後

    丹後2009年09月02日 19:51 削除
     【自己レス】
    「いくら何でも少し変ではないか」と思って,確認のために再度現地を訪れた。標本が少量だったし,分布の様子(どの程度あるか)も知りたかった。更に,各種文献の記載に雌苞葉についての(「普通葉」とは大きく違う)言及がない,のが気にかかっていた。

    イクビゴケ属 Diphyscium だった(ミヤマイクビゴケ D. foliosum か?)。葉身が 2細胞層なので間違いない。イクビゴケの「普通葉」に長い芒はないから,とハナからはねてしまっていた。実際は,どこまでが普通葉なのかはっきりしない。

丹後

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