カガミゴケ B. hennoi に似ているが何だか違うもの,これで 3度目の採集である。今までは「生育状態の違いもあるだろうし・・・」と半信半疑であったが,今回「これはもうはっきり違うものだ」という確信がやって来た。別に新しい事実に気付いたからではない。多数の標本を時間をかけて顕微鏡で見ているうちにそんな風に変っていた。「ただ,長く,見る」ということのすごさである。「ただ見るだけ」というのは簡単ではない。ついあれこれと分析をしてしまう。
どこが違うのかを敢て直感的に書いておく。それぞれ変異があるので測定値で機械的に区別するには,「代表値(最頻値)」を使う必要がある。本標本 ⇒ カガミゴケ。
(1) 葉はやや疎らにふわっとつく(隙間がある)
⇒ 重なり合って分厚くぎっしりつく。葉の量が多く密。
(2) 葉は「強く扁平」にはつかない。
⇒ はっきり真田紐状になる。特に茎頂。葉先は下側へ曲って回り込む。
(3) 葉が細長く(披針形),漸尖して鋭く長く尖る(しばしば錐状)。
⇒ 葉は大きく楕円状に見え先が急に短く尖る(ものが多い)。
(4) 茎(葉を含め)は細っそりとしてなよなよ,葉質も薄く全体に柔らか。
⇒ 茎はより幅広く,葉は丈夫で固くがっちりしまった感じ。
顕微鏡下では。
(1) 葉先の鋸歯は目立たず,あっても低い。
⇒ 非常に強くて明瞭(常にあるわけではないが)。
(2) 葉身細胞は長さ ±80μ。
⇒ ほぼ間違いなく 100μを越える。
(3) 葉身細胞は両端が鈍でやや厚壁。うじ虫状に多少うねる。
⇒ 両端は鋭く,明瞭に薄壁。かすかに波状になるがうじ虫状とは言えない。
(4) 葉は小さく,二折り(凹んで)になり強く鎌曲り。
⇒ 葉はあまり凹まず,葉先もそんなに曲らない。
ごちゃごちゃと書いたが,実はどちらであるかは肉眼でも分る。カガミゴケでないことはよいとして,残ったトガリゴケとヒメカガミゴケ B. complanata はどう違うのかがはっきりしない。「葉縁上半部に鋭歯が並ぶ」など,ナヨナヨカガミゴケ B. herbacea ははっきり違うもののようだ。
(1) 「葉は強く扁平に」はつかない,(2) 茎葉は大きく長さ 1.5mmに達する,の 2つを根拠として本種トガリゴケと判断した。信頼度は 85%くらいか。
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豆飯の 豆を押し上げ 炊きあがる 藤井初江
豆飯に 何はなくとも 目刺焼く 高濱虚子
豆飯を 熱がつてゐる われらかな 千葉皓史